暑い日の過ごし方 -レジェヌン-
「見て見てー!」
ぱたぱたと足音を響かせて本部を横切ってきたのは金の巻毛の青年だった。
くせの強い彼の髪は、今は少しずつ房にされて捻られ、極小サイズの花ピンでとめられている。
多少大きめのカットビーズやドロップビーズを合わせて作られた花は数を重ねてもそれぞれが大きく存在を主張することもなく、綺麗に並んで止まっていた。
耳の脇の一カ所だけ、花に連なるように細い鎖が下がって、先に小さな蝶と涙型の石が遊んでいる。
「おう、可愛い可愛い」
そんな蝶を指で弾いて、仕事中だというのに葉巻をくわえたサングラスの男が調子良く笑った。
絶対に己に飛び火して来ないのを知ってるからこそ出るセリフ。
何があった、と聞くような愚は犯さない。
先ほど、衝立で仕切られた休憩用のソファがあるスペースに複数の女性が移動していくのを目撃している。
それだけ知っていれば十分だった。
少し前から電気系統のトラブルで、部屋に閉じ込められたまま。
さらに空調の調子も悪いとくれば、遊ばれたのだろうことは容易く想像が付く。
非常用の出口から出ることは出来るが、そこから繋がる階段はさらに輪をかけた蒸し風呂状態になっているのは先ほど確認済みだった。
結果的に、任務が無い以上誰も積極的に外に出ようとしない。
軽すぎる男の返事に青年が不満そうに首を捻った。
「ホントにそう思ってるー?」
「おう」
いつものようにくしゃくしゃと髪をかきまぜてやろうとして、苦笑する。
「せっかくの力作を壊したら女どもが恐ぇな」
言葉の意味に青年も笑った。
「確かに。でも……」
惜しむようすも無く、青年は自らの髪を止めていたピンを抜き取る。
「おいおい」
「触れてもらえないなら、いらない」
「それで俺が怒られるワケか?」
「そんなコトさせないよ」
手招かれてイスに座っている男の膝に乗り上げる。
「よく言うぜ」
言いながらも男は望まれるままに髪に指を絡ませた。
青年が目を細めて笑う。
「大丈夫。こうすれば、絶対怒られないよ」
笑ったま自らの髪から抜いたピンを男の髪にすべらせる。
「何の冗談だ?」
「何で? かわいいよ?」
無邪気な子供の笑顔で告げられればそれ以上反論する気も起きない。
「あら、外しちゃったの? せっかくかわいくできたのに」
「うん。僕だけなのもつまらないから。おすそ分けしようと思って」
衝立の向こう側から顔を出したのは、一見少女にも見えるほど幼い容姿の女性。
困り切った男の様子に、ウエーブのかかった髪を大きく揺らして笑う。
伝説のタークスも形無しね。と口の中でだけ呟いて二人の傍に立った。
「貸して、それ」
「これ?」
「そっ。もう一回止めてあげるわ」
青年の手から残りのピンをとりあげて、いくつかを男に。残りを再び青年の髪にとめる。
お互い髪の半分だけが止められてる状況になった。
「はい、おそろい」
「ありがとう」
彼女の名を呼んで礼を言う青年の横で男が苦笑い。
「どう考えても俺には似合わないだろうという考えは無いわけか?」
「あら、だから楽しいんじゃない」
大丈夫よ、今日はここに居る男性全員が犠牲者だから。と何の救いにもならない言葉を残して笑う。
格闘を得意とする二人や、ツォン、レノ達いわゆる先輩達がこぞって留守なのが救いか。
もっとも、髪の無いルードは絶対に犠牲になることは無いだろうが。
ひらひらと手をふって戻っていく彼女を見送って、青年は男の髪にとめられらピンに口付けた。
合わせるように揺れて遊んでいた石の蝶が、まるで睦言でも呟くかのように男の耳朶に触れる。
「どうせ逃げられないよ。だから今曰はそのまま、ね?」
小悪魔のように笑って青年は唇同士を掠めさせた。 結局従うしかなくなった男はもう一度皮肉げな笑みを浮かべる。
その場に居た他のメンバーが皆衝立の向こうに連行されてるのをいいことにして掠めただけの青年の唇を深く捕らえた。
2007/09/29 【BCFF7】