銀月

珍しく綺麗に晴れた夜だった。そうは言っても、むしろ現在の時刻は夜よりは朝に近い。
冷えた静かな空気は、夜通しミッドガルを騒がせたモンスター発生の出来事を彼方に流しやり、すでに夢の中に踏み込んでいる。
ミッドカル伍番街、プレート外縁部。
隣にあたる六番街のプレートは未だ建設途中のままで、ぽっかりと暗黒が口を開けている。
そんな誰も近付かないようなプレートの縁に、わずかに動く影があった。
黒のスーツに身を包んだ青年だ。疲労の色が濃い表情と、汚れが目立つスーツ。近くに置かれた二丁の銃は彼がつい先程まで街中を駆け回ってモンスターを相手にしていたことを示している。
壁に寄り掛かるようにして座り込み、柵もない縁から片足を投げ出して、時折無意識に火のついた煙草の灰を落とす。
見上げる先には月。
休む事なく空を薙いで権威を誇示しようとするサーチライトは、空を見ようとすれば邪魔でしかない。それでも視線が零番街方面とは逆を向いていることもあってさほど気にはならず、むしろ月を探しているのではないかと馬鹿な空想が頭を過ぎっていった。
吸い尽くされた煙草が短い命の火を消す。
もう一本に火を点けようとしたところで、不意に視界の端が月よりも硬質な光を捕らえた。
「何をしている」
冷たく輝く銀。神羅の英雄と称される長身の男は口調に反した穏やかさで青年の傍に立った。
「セフィロス……」
どうして、と問いたいのはお互い同じだと気付く。
ふっと息を吐いて青年は警戒を緩めた。
「ただのサボリだ」
「なるほど」
火を点けられないままの煙草が青年の手元で遊ぶ。
知らなかった、とセフィロスが微かに笑みを洩らした。
返事を期待しているわけでは無いだろう。
「ミッドガルからでも月が綺麗に見える場所があるんだな」
銀の光は月に似合いすぎ、穏やかな表情は心なしか楽しそうに見える。
「……ああ。そうだな」
青年も特に聞かせるでもなく相槌を打って。そのまま月に視線を移す。
だいぶ高度を下げたそれが日の光に追われて消えるのを見たいような気がした。
この英雄が一緒に消えることなどないだろうが。
「……なんだ?」
視線に気付いたセフィロスが問いを投げる。
対する青年は表情を変えず、用意していた別の言葉を投げた。
「試してみるか?」
返ったのはそんな言葉。
「何を……」
「幻だとでも言うような目をしている」
言われて、そんな顔をしていただろうかと目を臥せる。
「冗談だ」
途端に笑い声とそんな言葉。
「……あんたを月に例える奴らの気持ちが分かった気がする」
「ほう。それは聞かせてもらいたいな」
皮肉めいた笑いだったが、随分と印象が変わるのだと思う。
戯れのように近くなった距離で銀の滝に視界を奪われる。
「戯れ事だ。気にするな」
すべては戯れだと告げて、わずかに身を引くと、合わせるようにセフィロスも距離をとる。青年は今度こそ遊んでいた煙草に火を点けた。
語るつもりがない意思表示。
察したセフィロスのほうも、それ以上の追求をすぐに諦める。
「そういうことにしておいてやろう」
口調を裏切る極上の笑みを残して踵を返す姿を追って青年も苦笑を零した。
月はまだ朝の光を知らず、地平に沈むにもまだ少しある。
先程までとは違い、それを見たいという気持ちが弱いことに気付く。
やっと戻るか、と思えて、青年も腰を浮かせた。

かなり長いこと居座っていた拍手お礼でした。セフィニチョひっそり好きなんですよ……

2008/02/21 【BCFF7】