望んだ偽り

魔晄炉への侵入者への対処。
制裁としてのプレート支柱破壊。
どちらも命令を出したのは己ではない。
「温いな」
「……ルーファウス様?」
薄暗い部屋の中でルーファウスと呼ばれた青年は皮肉げに笑った。
目の前にはタークスのスーツを纏った馴染みの男が一人。
縁あって見慣れてしまった顔は感情を排しきれずに歪んでいた。
つかつかと歩み寄って、何の前触れも無く己より背の高い男の頬を張る。
衝撃で加害者であるはずの青年の掌の方が痛んだ。
「今はまだこの程度で済んでいる。だが私は親父とは違うぞ、ツォン」
まだ分からないらしく、それでも無様に頬を押さえる事は無く。
ツォンと呼ばれたタークスの男は僅かに瞳を伏せただけで直立を守った。
「私は以前何で世界を掌握すると言ったか覚えているか?」
「……はい」
「ならばそれが答えだ。不要なものは捨てろ」
歪められた唇の端に触れる。
それが不要なものだといわんばかりに。
「ルーファウス様。質問しても構いませんか」
「何だ」
「それで、本当によろしいのですか」
「愚問だな」
「……分かりました。それでは今後はそのように」
浮いてきた感情を無理矢理押し込めて、ツォンはルーファウスの言葉に頷いた。
不要だと言われた感情を削ぎ落とす行為は酷く骨が折れる。
軋みを上げる思考をわざと無視するようにツォンは瞼を伏せた。
「実践してみせろ。支柱破壊の実行者はレノだったな」
「はい」
「ならばお前はあの古代種を確保してこい。下手なところに居られて巻き込まれても迷惑だ」
「それは……」
「もう下らん甘えは許さん。実行するのは、今だ」
ルーファウスの声に鋭さが増した。
「社長の命令でもあるだろう。これは」
知っている、と言わんばかりの言葉。
実際その通りで反論する言葉も無い。
命令は命令として出ているのだから、それをルーファウスが知っていたとしても不思議ではなかった。
そうやって過ごしてきた彼を知っている。
「はい……」
「では速やかに行動しろ」
「了解……致しました」
瞳を伏せたままで深く腰を折るツォンのタイを引き、至近でにやりと笑う。
「仮面が必要なら私の欠片を纏えばいい」
それとも、お前が尊敬していた上司の方を真似るか。
言葉は、針のように感情を乱す。
「ルーファウス様……」
確かにどちらも感情とは別のところで行動できる人物だった。
己もそうであろうとはしていたものだが、まだ足りないと彼は言う。
「命令は果たしましょう」
「期待しているさ」
ツォンのタイを手放して、近くのソファへと沈む。
高く足を組んで笑みを刻んだままツォンを見上げたルーファウスの表情は完全に部下を試す上司のそれ。
「……失礼します」
くつくつと笑う声に送られてツォンは部屋を後にした。
向かう先はヘリポートか。
僅かに思考した後に彼は全ての感情を消し、傲慢な表情だけを纏って歩を進めた。

FF7 10周年おめでとうー!! という事で過去を思い出しつつ、コンピの影響を織り交ぜてツォンル。 初めてだツォンル。笑。 刀ルの時も思ったけど、主任の影がちらつくあたりで私だな……(苦笑)

2007/01/28 【BCFF7】