隣を歩く

「寒くなってきたね」
「そうだな」
ただの世間話ととれる会話。
よく変わる表情と明るい金の巻き毛を持った青年が隣を歩く大男の周りをくるりと回った。
「どうでもいいって返事」
ぷう。と頬を膨らませる。
それが楽しくて、男はくつくつと笑った。
「ガキが」
「ガキじゃないよ。緊張を解こうと思ってるだけじゃないか」
「緊張なんぞと縁があるとは思えんな」
男は軽く笑って銜えたままの葉巻を遊ばせる。
サングラスで目許を隠していても、呆れている気配は伝わるものだ。
青年は拗ねるように視線を逃がして、持っていた袋を引き寄せた。
「ボクだって緊張くらいするんだけどな」
ぽつり。
袋の中に吐き出す。
「何だって?」
「何でもないよ」
悔しいから言ってやらない。
口の中だけで呟いて。青年は男の真似をするようににやりと笑って見せる。
「あ! ボク先行くね!」
遠目に見えるのはあちこち自由に跳ねた赤銅色の髪の毛と漆黒のスーツ。
見間違えようもなく青年と仲のいい同僚の一人だった。
ぴょこりと飛び跳ねて両足で着地する。そこを、猫でも掴むように後ろ襟を掴まれた。
「まあ、待てよ」
笑いを含んだ声が降る。
「邪魔をするのは野暮ってもんだ。大人しく俺の隣を歩いておけ」
顎で示された先に小柄な影。
それに向かって赤銅色の髪の同僚は手を振った。
楽しそうに笑いあう二人を横目に、男に掴まれたままの青年は道を逸れていく。
「どうせあと数時間後にはここも戦場になるんだ」
「……うん。そうだね」
離してくれと身振りで告げて。
苦く笑った青年は男の傍をゆっくりと歩いた。

冬の間の拍手お礼でした の割に春まで居座ってたとかもういつものことです。 季節ものは書くまいと思うのになぜか書いてしまうこの不思議。

2009/05/08 【BCFF7】