掴んだ鍵の端は

「見ろよ、スコール、ジタン。今日はちゃんとしたトコで眠れそうだぜ!」
嬉しそうな声が前方で響いて、もはや疲れすぎて喋る気力もなく、ただ黙々と歩いていた二人は顔を上げた。
前を歩くバッツとティーダが多少高い丘の上で手を振っている。
思わず、元気だなあいつらと零したジタンに、スコールが無言で同意した気配が伝わった。
「おー……何が見えた?」
「多分、宿?」
「宿?」
聞き返してからジタンは辺りを見回す。
どう控えめに見ても周りの景色は荒野で。宿など存在するとは思えない。ただ、この世界は常識で計ることが出来ないのもよくわかっていた。
傍らのスコールがどこか苦い顔をしているのも原因だったかもしれない。
ようやく先に行っていた二人に追いつくと、スコールはますます眉間の皺を深くし、ジタンは目を輝かせた。
「おー。ホントだ。ちゃんと宿だ」
ぽつんと。荒野に立つそれは宿というよりもホテルというのが正しいような背の高い建物で。浮かれながら近付く面々は、それでもあたりの警戒は怠らない。
「平気そうだな」
「じゃあ今日はここで一泊決定?」
スコールが零せば、嬉しそうにティーダが飛びつく。
「いいんじゃないか? そろそろ野宿は嫌だって言ってるヤツも居るしな」
自分以外の面々を均等に見回してバッツが笑う。
三人はそれぞれ違った表情でそんなことはないと告げていて、からかったはずのバッツの方が吹き出してしまう。
「まあいいや。とりあえず入ろうぜ」
半分開いていたガラスの入り口をくぐって、四人は中に入る。
どういう仕組みかは不明だが、中は明るかった。
「なースコール、電気ってどこから来てるんだろうな?」
「……知るか」
ティーダがスコールに問いを投げたのには意味は無いのだろう。一番世界観が近いと思ってのことだとすぐに知れた。一言のもとに切って捨てられても、懲りもせずに笑っている彼を見て、スコールは溜め息を落とす。
「んー……どうする?」
「あー。鍵閉まってるのか」
近くの部屋の扉を押して開かないのを確認するジタンにバッツが頭を掻く。扉を壊して入っちゃおうかと相談しはじめた二人を置いて動いたのはスコール。
ひょいと。入り口脇にあったカウンターに片手を付くだけで乗り越えると、ちゃり、と金属の音が続いた。
「バッツ、ジタン」
「おっとっと!」
投げつけられたのはどこかわざと古めかしい形をとった鍵。
「それしか無いな……部屋番号を見る限りでは一番上だ」
無造作に放られたものと同様に投げやりな声が響く。
「上か……まあ、こんなトコならどこでも一緒か」
「なあスコール。これ、二部屋しか空いてない……ってことであってる?」
「ああ」
どうするとジタンが問う前に、ポーンと、妙に軽い音がロビーに響いた。
「お。エレベーターも動くぞ。とりあえずさ、行ってみればいいッスよ」
上の階にあるならもしかしてツインなんじゃないのかと言うティーダの言葉に、スコールも頷く。
「ツインというよりもスイートだな」
「なら尚更だろ。ほら、バッツもジタンも乗った乗った!」
ティーダは笑って無理矢理全員をエレベーターに押し込んだ。ごとん、と。眠そうな音を上げて動いた箱は目的の階へと彼らを運ぶ。
降りた階には二部屋しか存在しなかった。廊下を挟んで左右に扉が一つずつ。
「んと……ジタン、どっち?」
「あー……左だな」
「じゃおれは右か」
悪戯を思い付いたというように二人は視線を合わせて、扉の前に立つ。
かちゃり。
鍵が開く音は同時。中を覗けば案の定、ベッドは二つずつ。
「どっちがどっちと同室になるかはおまえらで決めろよな!」
「文句は言わないからさ!」
にっこり。鮮やかに笑った二人は全く同じタイミングで扉を閉めた。
慌てたようなティーダの声が廊下に響く。
「さて、どっちが来るのかな?」
くすくすくす。扉を閉めた二人は楽しそうに笑う。
そうして、同じように窓辺に進んだ彼らは引かれていたカーテンを開けて。テラスに繋がっている窓を開けた。
途端に風が渦巻いて布を巻き上げる。
舞い上がるカーテンに混ざって、小さな衣擦れの音。金属が擦れ合う囁き。
装備を解いて軽装になった彼らは、布の間に隠れて扉を見た。
かちゃり。
ノブが回る。
ゆっくりと開いた扉。
入ってきた影は、装備が軽い為にほとんど音をさせず、絨毯の敷かれた部屋を歩く。
ちゃり、と。わずかに胸元で銀が笑った。
こうなると思ったよ、と。
布の影から笑って顔を出した体はすぐに捕まって。
強くはためくカーテンを目隠しに、彼らはそっと唇を合わせた。

スパコミでお土産返しとして配ったブツ。 最後はスコバツでもバツスコでもバツティダでもティダバツでもスコジタでもジタスコでもティダジタでもジタティダでもお好きにご想像下さい、という得意のコンフュ小説の発展系でした(苦笑)

2010/05/25 【DFF】