器用な指先
ああ、と。
背後で聞こえた小さな声に振り返ったナギは、肩越しにどうした、と声をかけた。
「なんでもありません。大丈夫です」
あわてて取り繕う仕草を見せたのは、めずらしくクイーン。
疑問符を飛ばしつつ体ごと向き直れば、すぐに異変に気付いた。
作戦開始時間まではあと少し。
「……眼鏡か」
「問題ありません。レンズは無事ですから」
「おいおい。問題大有りだろ」
ひらひらと目の前でちらつかせる掌は、かしてみろの合図。
どのみちこのまま持っていても仕方ないと思ったのか、クイーンは素直に青年の手に外れたレンズとフレームを乗せた。
破損箇所を素早く確認した彼は、くつりと笑ってその場に座り込んだ。
「見えなくて作戦失敗なんてシャレにならないだろ」
「そんなミスはしません」
全く見えないわけではない、と。
焦りを含んだ反論の言葉はナギの頭上を通過していく。
そんな声など全く気に留めず。
ナギはどこから出したのか、簡易的な工具でねじをゆるめ、綺麗に外れたレンズを嵌めて元に戻した。
手慣れすぎた動作にかかった時間はわずかで。
綺麗に指紋を拭われた眼鏡がクイーンの鼻の上に乗ったのは作戦開始までのカウントダウンが聞こえはじめる一瞬前。
「えっ……!?」
わけが分からない、と。クイーンの目が丸くなった。
通信機からカウントダウンの声が聞こえる。
「応急処置だ。帰ったらちゃんと直してもらえよ」
紛れるように呟いてクイーンの肩を叩いた青年はゼロの声とともに暗がりへと消えて行った。
『0組?』
「あ……っ、はい。こちら0組。作戦を開始します」
通信機からの問いに動揺を飲み込んで。
クイーンはレンズ越し、いつも通りの視界の先に映る敵影に強い視線を向けた。
2012/11/07 【FF零式】