迷子探し
「迷子の迷子のナインくーん……っと」
さすがにそんなので見つかるわけがないか、と。
ナギは一人笑って髪をかき回した。
ぱらぱらと遠くで聞こえる銃弾はまだ白虎兵が残っていることを示している。
性質上、堂々と通信を使えない任務では物理的な伝令役を担う事も多いナギは、順調に参加している0組を見つけては次の指令を伝えていった。
そんな彼でも予測不可能な流れは存在する。
今の状況がまさにそれで、敵を追っているうちにはぐれたらしいナインを探すという事態に陥っていた。
またひとつ、街並の向こう側から連続する銃声。こちらはだいぶ近い。
それは次の作戦内容を考えれば上がるはずの無い方向で。別働隊がいる可能性と、目的の人物がいる可能性が同時に脳裏を掠める。
伝令と同時に斥候を兼ねている青年は、無視することも出来ずに足を向けた。
反響を計算して、距離と方向を導き出す。
直前で気配を消してそっと近付けば、無慈悲な銃声に混じって、投げやりな声が声が上がった。
「次から次へと湧きやがってそろそろめんどくせえぞコラァ!」
帰れないからさっさと終われと叫ぶ声が目的の人物だと確認して、ナギは近くに倒れていた白虎兵から服を奪った。
一瞬だけバレなければ問題無いからと、適当に羽織って敵集団の背後に回る。
「何をやってるんだ! そんなやつに関わってないでさっさとエフ地区まで後退しろ! 一緒に焼き払われたいのか!!」
中年の男を意識して声を張り上げれば、押され気味だった集団は、逃げる口実が出来たとばかりに全力で向きを変えて駆け出した。
「てめ……逃げんなコラァ!!」
さっきまで面倒だと言っていたわりにやる気満々で追いかけようと踏み出したナインの前にナギは立つ。
変装を解く暇は無く。敵と認識して躊躇なく突き出された槍を軽く跳ねてかわすと、先端を踏みつけて封じた。全体重をかけた槍の先は、そう簡単には動かない。
「俺だよ、ナイン。落ち着けって」
「その声……てめぇ鬱陶しい系だな?」
なんでそんな格好をしていると凄まれて、青年はくつくつと笑う。
「酷いなー。せっかく追い払ってやったのに」
「頼んでねぇっての!」
みすみす逃がしてよかったのかと問われて、どうせ行き着く先は罠だと応える。
少しだけ力の抜けたナインを見ながら、ナギは白虎兵の装備を脱いだ。
「おいてめぇ……人の武器の上で暢気に脱ぐんじゃねぇよ」
「あ、わるいわるい。忘れてた」
かしゃん。
適当に放った白虎兵の服は悲哀を告げ、元の姿を取り戻したナギは目の前で文句を言いながらも武器を収めた相手に手を差し伸べる。
何のつもりだと問われれば、にっこりと笑った。
「迷子のお迎え」
告げた言葉は気に食わなかっただろうが。
お前が最後だと告げれば、さっさと行くぞと焦りはじめる。
そこがまた可愛いと内心だけで笑って。
ナギはナインがまた脱線しないうちに先に立って歩きはじめた。
2012/09/17 【FF零式】