プレゼント
左手の銃をリロードしつつ、先にリロードの終わった右手の銃を敵に向けて一撃。
悲鳴とも恨みとも言えない声を上げて倒れた最後の一匹を見て、長めの髪をゆるく撫で付け、上着を窮屈そうに羽織った長身の青年は、少しだけ疲れたように息を吐いて武器をおさめた。
からからと。足元の小石を蹴って音をたてるようにして近付いてくる影がある。あれはわざとだろう。
「おみごとおみごと! さっすが0組」
白々しいほど明るい声には少しだけ恨みがましい目を向けるのを抑えられず、青年は心中だけで舌打ちを落とす。
声の主は見知った男だった。ひょいと身軽に岩場を乗り越えて近付いてくる。
「……他に何か言うことはないのか」
「んー? そうだねー……あ、キングって意外とめんどくさがり?」
そうじゃなくて、と反論しようとした青年は思わず目を見開く。
「なんでそう思ったかってカオしてるなー。二挺拳銃なら攻撃回数も倍でおトクーって感じだろ?」
くつくつ。男は笑いながら青年のすぐ傍まで近付いてぽん、と肩を叩く。
男よりも背の高い青年はわずかに眉を顰めただけで特に拒否することも無い。ただ、不快だと明確に刻まれたその皺に、堪えきれずに男は吹き出した。
「……ナギ」
「あっはっは。ごめんごめん。あんまりにも分かりやすいからさあ」
抗議の意味で呼ばれた名前にはさらなる爆笑で返して、男はするりと青年の後ろに回った。
「ちょっともう一仕事、頼まれてくれないかな」
何をする気だと思っても口に出さない青年を見透かしたように笑いをおさめて、真剣な声音。
「……何だ」
「奥のフロアのやつらの回収。ちょっと面倒なのが居てさ」
断るはずが無いのを分かっていての依頼。構わんと答えた青年に、ありがとうと告げる。
同時に。長めに伸びた青年の後ろ髪を掬った。
するりと結ばれたのは朱のリボン。
「ささやかだけどこれは俺からのプレゼント。じゃあ、行ってらっしゃい」
ひらひら。
わざとらしい笑顔と緩く振られた掌に軽く溜め息を吐いて、青年は振り返らないまま示された道を歩き始めた。
彼は、ナギが自分に身につけさせたものの正体を何となく察した。それはつまりその先に待っているものがそういう類いのものであることを示している。
なぜ自分でやらないのかという思考が頭を掠めるが、拒否するという考えには至らない。
この場に居るのはマザーと慕うアレシアの依頼。そしてその言葉を伝えるのはよく人をからかうあのナギという男。
ならば、0組のキングとしてこの場に立つ青年に選択の余地は無かった。
「ここか」
曲がった道の先に複数の敵の気配。
一度だけ瞑目して。
両手に慣れた武器を出現させると、青年は示されたフロアに飛び込んでいった。
2011/12/25 【FF零式】