情報提供

「ねえ、隊長っていったいどういう人なの?」
「は?」
 唐突にかけられた質問が意外すぎて、ナギは思わず間抜けな声を落とした。
「だから、クラサメ隊長ってどういう人なのよ。ここに来たばっかりのアタシ達よりアンタの方が長いんだからそのへん分かってるでしょ?」
 少し苛ついたような口調だが、決してそういうわけではないのだとナギに教えてくれたのは彼女と同じクラスの一人だった。
 クラスゼロ、と呼ばれる彼らは。それまでどこに居たのかすら明かされず、魔法局局長であるアレシア・アルラシアをマザーと慕い、どんなに劣勢な戦場でも駆け抜けられるような強さを持つ。
 アレシア以外の命令を聞かない彼らは扱い辛く、新しく隊長にと任命されたクラサメも初対面の時に反抗され、実力で文句を封じたと聞いていた。
 誰が洩らすという訳でもないが、0組は目立つ。多少の愚痴とて、誰かが聞いてればそれはナギ達が所属する組織の報告に上がるのは必然。ましてや、言葉遣いや、何も考えていなさそうな行動で一番目立つ男がそれを隠しもせずにそこらここらで衝突していれば事態の把握も容易というものだった。
 ううん、と唸ってみせるナギは、目の前で腕組みした少女をちらりと見る。
 ケイトという名前と、朱雀でも珍しい魔法銃の使い手であることだけは知っていたが、特に性格分析が出来ているわけでもない。
 0組全員に困ったら頼っていいと伝言したのは自分なのだから、文句を言う筋合いも無いのだが、さっそく面倒な問いだとひっそり溜め息を落とした。
「ナギ?」
 焦れたような声。さて、どう答えたものかと思いながら、ナギは口を開いた。
「なんつったらいいのか……俺だって、特にこれといって情報は持ってないぜ?」
 クラサメはあまり自分のことを語らないからと前置いて、よく聞く院内の噂だけを少女に告げる。
 氷剣の死神と呼ばれていること、いつも傍にいるトンベリのこと、カヅサやエミナとはある程度仲が良いこと。
「……俺なんかより、仲が良いっていう二人に聞いた方がいいんじゃないのか?」
「バッカじゃないの! そんなことしたらすぐにバレるじゃん!」
 心底バカにしたような言葉だが、落ちこぼれクラスだとナギを揶揄する候補生と違い、呆れの色が強い。
 まだクラサメを信用していないと告げるケイトは、だからこそナギに声をかけたのだと言って獰猛に笑った。
「出し惜しみはナシよ。アタシらだって必死だからね」
 表情を改めたケイトに、これは彼女なりの譲歩の方法なのだと気付く。命令だからと素直に聞くような顔ぶれではない。ならば己で確認するまで。
 そんな意思が見て取れて、ナギは軽く手を挙げて降参を示した。
「……わかった。でもホントに大した情報は持ってないぜ」
 今度は真面目に答える。表情を改めて。できるだけ誠実に聞こえるように告げれば納得したらしいケイトは笑って頷いた。
「じゃあとりあえず移動しよっか。お茶くらいはごちそうするよ」
「どーぞおかまいなく」
 人が集まってきていることに気付いていたナギは提案に逆らうこと無く先に立った少女に続いた。
 彼女は、ナギの心情に気付かない。
 どう答えたものか頭の中で情報を選り分けながら。それでもあまり面識の無い相手から頼りにされているのは今後を考えても悪くないかと思った自分に自嘲の笑みを落とした。

忘れがちなんですが、ケイトって魔法得意なんですよね(笑)わりと必死に情報を探ってる彼女が可愛いと思います。

2012/05/26 【FF零式】