仕返し
思わず転寝したくなるような昼下がり。
大きな作戦を後日に控え、その日は任務が無いことが分かっていたから、普段は険しい表情を崩さない面々も、どこかしら余裕がある。
それは0組だろうが、他のクラスだろうが変わらない。
たっぷりの日差しが降り注ぐ噴水広場には、色とりどりのマントが散りばめられている。
そんな候補生達の合間を縫って、忙しなく揺れる薄い黄金の髪を見つけてナギは目を細めた。
翻るのは朱のマント。
否が応でも目立つ『幻の朱』は、好奇の視線にももう慣れたのか、振り返る人々を気にする素振りもなくさっさと扉を潜って行く。
抱えていたものを見て行き先を察したナギは、それまで話していた相手との話をさり気なく打ち切って彼を追った。
たどり着いたのはチョコボ牧場の名で知られる場所。
柵の一部に凭れて本の頁を繰る姿を見つけたナギは驚かせないようにとそっと近付く。
「何か用か?」
「おっと! 気付いてた?」
わざとらしく驚いてみせれば、馬鹿したような声で当然だと返る。
「噴水広場で見かけてさ。多分ここだろうと思って追ってきたんだよ。ほれ」
広げられた本の間に落としたのはヒヨチョコボのぬいぐるみ。
「……どうしたんだ、これ?」
「ん? いや、この間任務で行った先で見つけちゃってさあ。一目見たらもうエースしか考えられなくなっちゃってつい、な」
どういうことだよと言わんばかりの視線にへらりと笑って。エースにしか見えなかったと言いそうになった自分に冷や汗を流す。
誤魔化すように側に屈み込むと、手触りの良い髪に手を伸ばした。
このチョコボ好きの友人が髪に触れられるのを嫌っているようでそうでもないことを知ったのはついこの間。
足元にはぬいぐるみに惹かれたのかヒヨチョコボが寄ってきて首を傾げている。
「可愛いな」
つい。零れたのはそんな言葉。もちろん普段ならそんな地雷になりそうなことは絶対に言わない。
チョコボのことだと思ってもらえないだろうか。そんな都合の良い考えを抱きながら、ナギはぐぎぎと音がしそうな状態で視線を移す。
エースは一瞬きょとんとした顔を見せた後で目を瞬いて。
おもむろに目の前のマントの留め具に手を伸ばした。
「おっと……っと?」
勢い良く引けば、油断していたのか。
バランスを崩した男にくちづけをひとつ。
「あんたの方が可愛いだろ」
にやり、笑って。勝利宣言。
予想外のことをされたナギはそのままエースの膝の上のヒヨチョコボを抱きしめる格好で撃沈し。
してやったりのエースは悠然と本の続きを読み始めた。
2012/01/17 【FF零式】