秘密
「レムちゃんはダメだぜ」
どうして、と。告げられた言葉に、少女が反発するのは当然だっただろう。
それでも、引くこと無く目の前に立った男は、作り物めいた笑顔でレムを制した。
「他の奴らに知られたく無いだろ」
男が口にするのは遠回しな脅し。
意味するところを悟ってきゅうっと唇を引き結んだ少女は、誘われるままに男に付いて歩き出した。
「どこまで知っているんですか?」
歩きながら試しに尋ねれば、返ったのは834年、と短い年号。
息を飲んだ少女は立ち止まって俯くと、決意したように顔を上げた。
「ナギ。私やっぱりこの任務、行きます」
言い切るように口にされた言葉に、ナギが驚く。
「え?」
「だって同じなんでしょう? だったら、行きたい」
レムは自らの胸に手を当てて頷いた。
誰かを守るために強くなった。同じことを繰り返さないために。
過去の人達は救えない。それは彼女も承知の上で。だからこそ今行かなくてはダメなのだと告げる。
「そこまで言うなら止めないけど、本当にいいのか?」
ナギの問い。それは最初の脅しに関する確認。
曖昧に笑った少女は否とも応とも言わずに踵を返してナギの前から姿を消した。
「やれやれ、失敗しちまったな」
本当に知られたくないのはそれじゃないってことか。
嘘の下手な少女の隠し事など、もはや公然の秘密も同然だった。
だが、本人が肯定しない限りそれは真実にならない。
彼女を取り巻く優しい面々はそれをわざわざ指摘したりもしないだろう。
「揃いも揃って……まったく」
文句を零しながらも、そんな面々が嫌いじゃない自分にナギは苦笑する。
仕方ないからサポートくらいはしてやろう。
その考え方がすでに昔の自分からぶれていることを承知の上で。
彼は上層部と掛け合うために通信機を繋いだ。
2012/01/19 【FF零式】