白原の風

 どこまでも白に染まった世界は晴れるほどに冷えが深く、細かく崩れる雪に足をとられる。
 吹き抜けて行く風は芯まで冷やすのに十分な寒さ。渦をまく風に細かな雪片が遊んだ。
「……眩しい」
 呟いて、雪原に佇む少年はコートに付属しているフードを被る。
 珍しく快晴とはいえ、降り注ぐ光は普段見ている朱雀のものよりも弱いはずだが、辺り一面の白に反射するそれは、刺すような鋭さを纏って彼の目を細めさせた。
 ただでさえ長い前髪に隠された表情は、フードに押さえ付けられた髪が下がることで全く分からなくなる。
 暗くなった視界に安堵して、彼はさくりと柔雪を踏んだ。
 己の名を呼ぶ声に気付いて少しだけフードを持ち上げる。
 近付いてくる影は三つ。揃いのコートを纏い、フードを目深に被った人影を確認して、少年は彼らの名を呼んだ。
「ナギ、早かったですね」
「自分は軽いので雪にとられにくい結果です」
 再会の確認をしながら天を見上げた彼らは、雲ひとつ無い空に溜め息を逃がす。
 日を誤ったかもしれないとは思うが、作戦まで間が無いのも確か。元々地元の者も通らないような道を歩いて来たのだから、当日まで残った足跡に気付かれないといいと願う。
「ご苦労様です。どうでしたか?」
 問いの意味を正確に理解して、二人は地図を広げた。当初の予定通りの道が使えそうだと告げながら、指先が辿る道筋を確認して頷き合う。
 示すルートは彼らの頭の中にのみ存在し、地図に線は引かれていない。そもそも、彼らが持っている地図に、極秘である研究所が記載されているはずが無かった。
 最初に確認した時は吹雪。そして二回目の今日は快晴。
 全く天候の違う日を選んだのは、山に囲まれ、その間からの吹き下ろしが強いこの場所が、天候によって全く違う表情を見せるからに他ならない。
「では予定通りで。四天王の三人は既に朱雀を出たと先ほど連絡がありました」
 先に到着し、通信を回復していたナギが告げれば、他の三人が頷く。
「了解。今日のところは一旦戻りましょう」
 彼らの任務は潜入ルートの確認と案内。
 危険な道もある以上、当日が晴れであったほうが案内はしやすいが、柔かな雪の上では移動の痕跡を消す術が無い。
 どちらがいいとは一概には言えないが、作戦が成功することだけを願って待機場所に戻る為に歩き出した三人の後に付いて踏み出しかけて、ナギはふと彼方を仰いだ。
 瞬間。強い風が吹き抜けて、フードを剥ぎ取り、長く落ちた髪を乱す。
 無防備に晒された肌を、瞳を、鋭い光が刺した。
「……眩しい」
 もう一度、誰に聞かせるでもない言葉を落として、ナギは光を嫌うようにフードを引く。その表情は変わらない。
 まるで何かに脅迫でもされているかのように無表情を貫く少年たちは、渦巻く風に背を押されるように雪原に足跡を刻んで。舞い上げられた雪の欠片は光を反射しながらコートの裾を掠めた。

ガンガン9月号を読んでカッとなって書いてインテで無配したSSです。 まさかのナギちゃん登場でものすごく荒ぶりました……破壊力凄まじかったです。 子ナギは氷剣の死神が完結したら掘り下げたいですね。

2013/10/30 【FF零式】