additional force
何度か口を開き、声にならないまま閉じられ。そしてまた同じことを繰り返す。
ゴルドルフは悩んでいた。
セレシェイラはそんな彼を何度か盗み見る。
手元には先だって指示された通り、今回の特異点に送り込めそうな追加戦力を記載したリストがあり、指示待ちの状態で宙に浮いている。
データであるそれはとっくに彼の手にも渡っていた。そして、今口にしようとしていることがその中から誰を送るかという指示であることまで予想ができている。
歴代のサンタクロースサーヴァントはほぼ全員が姿を消してしまい、多少穴が広がったとはいえ現状でも縁がある者を数人程度送り込むのがせいぜいだろう。
元が自由な神霊級や獣に連なるような者達に関しては考えないものとする。そもそも許可など出さずとも気が向いた彼ら彼女らを止められるものは存在しない。
おそらく人類最後のマスターを除いては。いや、それでも無理かもしれないがそこを突いてしまうと先が見えなくなるので封印しておくほかない。
「エルロン君」
ちかり、とアイコンの明滅。呼びかけと同時、手元の端末にマークがついた指示書が届く。
「呼び出してくれたまえ。私が責任を負う」
「了解しました」
データは横目で確認しただけだが、己の特性はしっかりと働いて、一度目にし、記憶したものを間違えることはない。
本当にいいのかとは問わなかった。
指示通りのサーヴァントへ招集の連絡を入れればすぐに応答があって、十五分だけ待ってほしいとの要請。今は一刻一秒を争う状況ではない。移動時間等を加味してもその程度ならば問題にはならないだろうと独断で許可を出してから三十分以内に到着予定と報告を入れた。
近くでは同僚であるムニエルとダ・ヴィンチが特異点のデータをあれこれひっくり返しながら調査を続行中である。今回はマシュも特異点に赴いており、ネモ達もいないことから管制室はいつもより人手不足の大忙しだ。
もっとも、ネモ達に関しては全員がボーダーに乗車して移動しながら必要箇所を調査、またはほかのサンタサーヴァント達を救出し、逐次特異点内部から分析結果を発信してくれるので悪いことばかりではない。
他の作業を進めていて気付くのか遅れたこともあり、到着を上司に告げる前に扉が開く。
ちょうど振り返ったタイミングだったこともあり、瞬間的に固まってしまったセレシェイラに対し、少し困ったように微笑んだ濃色の肌の青年はすまないと口を開いた。
「遅くなった。指示はゴルドルフ氏に伺えばいいのかな?」
「あ、はい。それで……おねがいします」
「ちょっとちょっとエミヤんー。女の子を威圧するのはやめなさいよ。もーなんでこんなに縦長に育っちゃったんだか」
「そんなことはしてな……いや、そうだな。その気がなくとも体格差等でそうとられてしまうことはあるな。これは私のミスだ。改めて謝罪しよう。ミズ・エルロン」
謝られても困る。顔には出たが声にはならなかったのは、大きいのにいきなり目の前に聳え立ったら怖いわよねぇと大袈裟に馴れ馴れしいジャガーが熱烈なハグをしてきたからだ。
不思議な気の使い方だと思う。今は特異点攻略中で、自分が固まってしまったのは個人的な問題だというのに、彼らはそれをみなかったことにしてくれる。
苦しいと軽く腕を叩いて訴えれば、ごめんごめんと笑いながら離れていった。
そのままゴルドルフの元に向かったエミヤの横に並ぶ。
「それで、マスターやシトナイちゃんの様子はどうなのかニャ?」
「……君は呼んでいないはずなんだが?」
「タイミングの悪いことに通信時にその場にいてね。諦めてほしい」
ゴルドルフの問いに答えたのはエミヤのほうだ。渋い顔をしているので不本意なのだろう。
誰がカカオを融通してやっていると思っているバレンタインは覚えていろしゃーなろー、などと意味不明なことを言っているが、ジャガーマンの目は笑っているのでおそらく本気ではないのだろう。
それだけにわざわざ連れ立ってきた意図が読めない。軽く会釈だけをして仕事に戻っても気になってしまい、聞き耳をたててしまうのを止められなかった。
エミヤが追加戦力として派遣されるため抜けた分の食堂担当者の振り直し。クリスマス当日に向けた準備の分担とスケジューリング。特異点データの分類と整理など。
いずれも、記憶の特性を利用した書記官という役から派生したもので、人員不足故の役割ではあるものの、必要とされていること自体は素直に嬉しいと思う。
暇であること、それゆえに門外の仕事を振られるのは怖い。
そうこうしているうちにゴルドルフとエミヤの間で話はついたらしい。結局ジャガーマンも一緒に追加戦力として派遣されていった。
「さて、エルロン君。仕事を増やして申し訳ないが、閲覧権限の一部を回すので状況を都度報告してくれたまえ。私はやることができたのでね」
「え? は、はい。所長はどちらに?」
問い自体は予想できていたのだろう。
「間抜けにもトントゥ化の呪いを受けたという主従はこの任務が終了次第休暇を与えればいいだろう。だが、同行してくれた彼女達にはそういうわけにもいくまい。あの弓兵を戦力として送り出した以上、私がやるしかないのだよ」
クリスマスに張り切っていたのはこの司令官も同じだ。なにしろ総指揮をとっていたくらいである。今年のサンタがアビゲイルだと知った時から何やら追加注文をしていたことは管制室のメンバー全員が把握していたが、その内容まで知り得ない。それでも今のやりとりからゴルドルフがエミヤに指示し、用意していたものを引き継ぐつもりだということは予想できた。
「以後は個人所持の端末に全て連絡をいれます。非常時の呼び出しは映像なしの通話でよろしいですか?」
そうしてくれと鷹揚に頷いたゴルドルフが管制室を後にする。同時に彼に上げるための情報として雑にラベリングされた報告が端末の端で明滅した。視線を巡らせればムニエルが曖昧な顔で笑っているので。おせっかいをしたのは彼なのだろう。
現場のサポートをしながらではそれが精一杯だろうことはすぐに理解できる。ならばここから先は自分の仕事だ。上がってきた情報を再整理、読み上げ音声のみでも理解できるようにしてから逐次指定された端末へと流し、返信があればダ・ヴィンチとムニエルに伝達する。
「ええと……こっちは大丈夫」
お菓子が作れる人というのが条件だったため、急遽エミヤの代わりに食堂に入ったのはひびちかコンビだ。その情報もついでに流しておく。
管制室のメンバーがゴルドルフが何をしていたのかを知るのは特異点解決後だ。
メリークリスマス。
聖夜を祝う挨拶が飛び交う中で、ささやかすぎる贈り物が各所に届けられた。
それは今年のサンタサーヴァントにも。
「まあ素敵だわ。兵隊さん、ネズミの王様、妖精さんに女の子。食べてしまうのがもったいないくらい」
彼女が感銘を受けたというバレエにちなんだアイシング・クッキー。
サンタがプレゼントをもらってはいけないということはないだろう。ムニエルに聞かれてそう答えたゴルドルフだが、名乗り出ることはしなかった。
それでも即座にバレてお礼に押しかけられたのはまたべつのおはなし。
2025/01/13 【FGO】