魔力の温度
来客を示すチャイムが響いたのに気付いて、部屋の主である赤の弓兵は書き物をしてた手を止めた。モニタで確認しても来客者の姿は見えない。首を傾げたものの、年若い姿で現界している者もいるのを思い出し、彼女達だった場合は身長が足りなくて映らない可能性があるかと思い至る。
少しだけ警戒をしながらも扉を開けた彼の視界に飛び込んできたのは、白い毛のかたまり。
瞬間、思考が停止する。
勢いよく部屋に雪崩れ込みはしたものの、奥の壁に激突するような愚行は回避した白い毛玉は、円を描くように壁沿いに部屋を一周して部屋の主人の前に立った。
「は……?」
しゅいん。呆然としている間に軽い音がして扉が閉まる。
きちんと足を揃えて座った影は二つ。
ふわふわの白い毛。はっは、と息を零す生き物には、覚えがあった。
「君達は……キャスターのところのか……?」
マスターである少年から請われて食事を作って以来、彼らの中で自分はご飯をくれる人という認識になったらしい。そう頻繁にではないがカルデア内のあちこちで見かけた姿であり、時には食事を請われることもあったため、よく覚えている。
部屋を認識されていたというのは驚きだ。
この場に呼ばれた英霊の中には与えられた部屋を好きに弄っているものもいるようだが、その必要性を全く感じていない弓兵の部屋には、一切の物が無い。
あるのはせいぜい備え付けの飲料ディスペンサーで使用するためのカップくらいで、それすらほぼ使用されずに片隅に追いやられている。
日々のほとんどをマスターである少年の傍か厨房に居る弓兵にとって、部屋とはただ魔力温存のために寝る場所であった。
「ここではなにも出せないが、食堂に行くかね?」
使い魔の類だ、と教えられた犬達は、言葉を話すことは無いものの、こちらからの問いは理解している節がある。
だが、普段ならば喜んで尻尾を振るだろう犬達は、なぜか警戒するように姿勢を低くした。
何か警戒させるようなことをしただろうか。
首を傾げた弓兵の耳に、壁越しでもわかるほどの声が届く。
どこに行った、と叫ぶ声に覚えがあった。
「……なるほどな。彼女達から逃げてきたというわけか」
そうとわかったら外に出るのはやめておこう、と苦笑する。
聞こえる声は二つだが、元を同じくするためか、とてもよく似ていて、注意しなければ壁越しにどちらがどちらの声かを判別するのは難しい。だが、弓兵が一瞬で相手を把握できたのにはもちろん理由があった。
声の主は、騎士の王と誉の高い、ブリテンの英雄。ただし、英霊という存在の微妙さ故か、このカルデアに存在する騎士王は一人ではなかった。
元を同じくするものでも、英霊として召喚される者はその一側面にすぎない。
そして複数の適正があることを見せつけるかのように、クラスも性別も超えて現界した霊基は少なくくとも五つ。
その中で、目の前のこの犬たちを巡って争いを繰り広げているのは、そのうちの二人だった。
一番有名であろう聖剣を持ち、青の装束に身を包む『青の騎士王』
同じく聖剣を持つが、ありかたが反転しているため、黒の装束に身を包む『黒の騎士王』
伝承上の性別と違い女性として現界している二人だが、根本の部分では同じ。
弓兵は直接目にしておらず話を聞いただけだが、亜種特異点のひとつと定義された新宿において、黒の騎士王は真白い野良犬に対し、かつて自分がお気に入りだった犬の名をつけ、二世としてかわいがっていたという。
特異点が修正された後、その犬の行方を気にしていた黒の騎士王が、めざとく発見したのがいま目の前にいる犬たちだった。
生身ではない犬たちだが、ふわふわの毛を持つその姿を見れば、好きな者なら撫でたいという欲求にかられるのも無理はないだろう。
それは英霊であれ、人間であれ変わらない。
最初に彼らに手を伸ばしたのは誰だったのか。名までは知らないが、職員のうちの一人だったと記憶している。出会う人ごとに違う名前で呼ばれていた犬達だが、最初の出会いがあったためか、騎士王のことは避けているようではあった。
だが騎士王の執念がそれを上回ったのか、必然とも言える日は訪れた。
しかも青と黒の騎士王、二人同時に相対してしまったからなお悪い。
彼女たちはそれぞれの言い分をもとに犬達を同じ名前の二世と三世と呼んだが、犬たちにとっては、ほかの誰にでもそうするようにいくつもの名前の一つでしかなく、彼女達が単語一つで争う理由がわからない。
我関せずを決め込み、いつものように要件だけを済ませて立ち去ったため、追われることになった。
主のところに戻ろうとしたものの、先回りをされていたために果たせなかった犬達は、以前食事をくれた弓兵の気配を察知し、逃げ込んだ。
というところがここまでの顛末であった。
事情が分からないなりにも、なんとなく察している弓兵はどうしたものかと首をひねる。
「元が魔力であるならキャスターに引き取りにきてもらうのが一番手っ取り早いが……」
使い魔の類ということは、命令を達成したとなれば待機状態になり、それ以上留まっている必要が無ければ姿は解けて術者に戻ることは予想できた。お使いだったのであれば、主の元に結果を持ち帰れば達成となる。帰れないのなら主人のほうに来てもらえばいい。
だが、おそらくそんなことをしたら一発でこの場にいるとばれる。そうなった場合、次回以降何かあった場合に避難場所をひとつ失うことになることも考えられる。
とりあえずは彼らの主か、マスターの少年かどちらかに連絡をとるべきか、と考えたところで、部屋に備え付けの通信端末が呼び出しを告げた。
お決まりの文句で応答をすれば、画面に映ったのはまさにいま連絡を取ろうとしていた二人。
「よかった……二匹とも無事だったんだね」
心底良かった、という表情で胸を撫で下したマスターの少年は、簡単な事情説明をしたあと、もうしばらく彼らと部屋に籠っていてほしいと要請してくる。
「承知した。本日は戦闘も厨房詰めも禁じられているから問題はないよ」
「うん。こっちで彼女達と話をして落ち着かせるから、お願いね」
「あー……どうせならおまえさんはそいつらを存分にモフモフするといいんじゃねぇか。ほら、あれだ。アニマルセラピーってやつだ」
申し訳なさそうな顔で告げる少年の横から、どこか面白がっている男の声が割り込む。おまけにそれを聞いた少年まで心底うらやましそうな表情でいいなあと言い出すものだから、面と向かって即時拒否するのは躊躇われた。
「……君は私を何だと思っているのかね」
「いつでもよく働く厨房のヌシ様だろ。追い出されて手持無沙汰なんじゃないかと思ったんだが違うかい?」
悪びれもなく告げる光の御子に気付かれないよう大げさに溜息を落とした弓兵は、自らの答えを放棄し、傍で行儀よく控えていた二匹に判断を委ねた。
「主はこう言ってるが、君たちの意見はどうかね?」
首を傾げるような仕草をして弓兵とモニタを見比べた犬達は、直後にモニタの向こうから響いた、かまわんからやっちまえとの声に、一斉に弓兵にとびかかった。
「ちょ……ま……ッ……」
引き倒され、全力でモフモフされる羽目になった弓兵の口から、こんな時でも外に漏れないようにと配慮しているどこか控えめな悲鳴が上がる。
「ねえキャスター、あれっていいの?」
「ほっとけほっとけ。オマエさんもしてほしいなら次の時あいつらに言ってみればいい。そんじゃま、オレらは暴走する獅子二頭を宥めにいくかねぇ……」
「あ、待ってよキャスター!」
唐突にバタバタした気配が漂って、ふつりと通信は切れた。
床に倒され、今も全力で毛玉に顔を埋めている弓兵には明確に終話を確認する手段はない。ただ、通話終了時に上がる独特の切断音が響いたのを辛うじて捉えただけだった。
この身が只人であったのなら素直に温もりと捉えるのだろうか、と。
いいようにもみくちゃにされながら弓兵は考える。
しきりに擦り付けてくる体から、じわりと彼らの主の魔力が滲んだ。
代謝も排泄もない、魔力で編まれた体でも、食事をすればそれは魔力に変換されるため糧となる。
一般的な温もりのかわりに感じる魔力はどこまでも優しい、見守る者の温度。
それならば、英霊に対するアニマルセラピーというのも効果ありなのかもしれないと笑って。
誰も見ていないのをいいことに、弓兵は犬達に手を伸ばすことを自らに許した。
※
「つっかれたぁ……」
「おー、随分と手こずったなあ」
廊下の所々に備え付けられた小さな休憩スペースにあるソファには、だらりとだらしなく溶けた影が二つ。
起き上がるのも怠い、と零した声に同意が返る。
時刻はもはや夜半過ぎ。騒ぎがあったのが夕方だから、と思い返すと何時間費やしていたのかと遠い目になった。
唯一の救いは、午後一番からシュミレーターでの戦闘訓練に籠っていたため、切り上げてすぐに夕食をとっていたおかげて食いっぱぐれなくて済んだことくらいか。
「ほんっと、ありがとうキャスター。俺だけじゃ無理だったよあれ……」
「おう、おつかれ。まあ、オレはあいつらを回収するって用がまだ残ってるから、弓兵にはついでに解決したと伝えておいてやるが、お前さんはこのまま部屋に戻って休むといい。立ち上がれないなら嬢ちゃん呼ぶか?」
男の言葉に、さすがにそれはどうかと思うからいいと返した少年はよろよろとしながらも立ち上がる。肉体的というよりも精神的な疲労が多分をしめるからか、多少危なっかしいながらも思ったより足取りはしっかりしている。
ふわ、と。その口から欠伸が零れた。
「じゃあおやすみキャスター。エミヤによろしく」
「ああ。おやすみ」
気安いやりとりには信頼が滲む。
ふらふらしながらも歩き始めた少年に、どこから現れたのかフォウ君と呼ばれている獣が並走する様子を見て、男は苦笑を落とした。
あれがついているなら、少年はまずちゃんと部屋まで辿り着くだろう。
精神的な疲労度は少年とそうそう変わらないが、年の功で問題ないという結論を無理矢理張り付けて、男は発端となった己の手足を回収すべく歩き出した。
そういえば自分たちと違い、巻き込まれた弓兵はずっと部屋に籠っている羽目になったかと思い当たって、食堂に寄り道。
翌日の食事の仕込みをしていた厨房担当に軽食を分けてもらい、目的の部屋の前に立った。
チャイムを鳴らせばすぐに応えがあって扉が開き、部屋の主である弓兵が姿を見せる。
「わざわざ来てくれたのか。解決したのなら呼び出してくれればよかったのに」
「それでも良かったんだがな。騒ぎのどさくさでお前さんメシ食いそびれただろ? どうせ状況を説明する必要があるからその間に食ってもらおうと思ってな」
ついでに持ってきたと言って笑った男に、面食らったように瞬きをして表情を崩すと、青年はそのまま半歩引いて男を部屋に招き入れた。
来客を想定されていない部屋には落ち着いて向かい合える場所などはないが、彼らは気にしない。
作り付けのデスクに持ってきた食事を置くと、男は勧められるままに寝台に腰を落ち着けた。
主の気配を察した犬達が寄ってくるが、そちらの確認は後回しだとばかりに待機を命じる。
「とりあえず食べながら聞いてくれ」
「そうさせてもらおう」
用意してくれた人物を考えると後が怖そうだ、と。おにぎりと味噌汁、漬物というラインナップを見ながら、そんな日本人大歓喜の夜食を用意するであろう人物の顔を思い描く。
からからと笑う男は同意した後、マスターである少年とともに数時間にわたって展開された対獅子戦について語り始めた。
「ってことなんだが……なに笑ってんだよ」
「いや、すまない。なんとなく状況が目に見えるようでね」
疲労困憊のマスターには明日にでも何か菓子を差し入れておこうと続ける。おいおい、オレには何もないのかよと拗ねる男への返答は沈黙。とたんにジト目になって男は弓兵を見た。
「オイ……」
「いや、だって君はそんなに得意ではないだろう」
まさか強請られるとは思わなかったと続ける。
カルデアに現在居るクー・フーリンは全部で四人。クラス違いも多少の年齢の違いもあるが、根本的なところは変わらず、食の好みは似通っていた。
進んで菓子を口にするような好みをしていないと把握している。
そう告げること自体が持つ意味を、弓兵は自覚していない。反対に、キャスタークラスで現界している男は、自分の分の菓子を最初から用意しないという意味を正確に把握できてしまった。
だからこそあえて突いてやりたくなる。
「確かに酒や肉のほうが好みだが、お前さんの作る菓子は嫌いじゃねぇよ」
視線を外し、待機していた犬達を呼び寄せながらの言葉には隠しきれない笑いが混じる。
「そうなのか。それは……すまなかった」
素直に好意の言葉を向けられるのに弱いのを知っている。
同じ目的のために召喚された全員がこの場を拠点とし、生前と同じように生活しているとも言っていい状況でなければ不要な情報。
歴戦の戦士が酒が飲みたいと告げるのも。
年若い姿の者達がお菓子が欲しいと強請るのも。
英霊という存在である以上、不要なはずのものを欲しがるという点では同じ。
「だからといってやたら欲しがるってこたぁないがな」
普段は不要だと思っていても、たまには欲しいと思うことはあるだろう。
さらり。零した言葉とともに手元の犬達の額を撫でる。
「キャスター……その……気持ちは分からなくもないが……さすがに今の君に槍は無理だと思うぞ……」
「なんでそうなるんだよ!」
確かに普段から槍が欲しいと漏らしている自覚はあるが、今はそういう話ではない。
どこかずれている弓兵には肝心なところで何も伝わらない、という何度も繰り返されたことをこの流れでやられた男はがっくりと肩を落とし、逃避するように首を傾げた犬達と目を合わせる。
自分の魔力で形作ったそれらの表面に混じる別の魔力に、内心だけで笑みを零した。
撫でる、という行為は思いを残す。
つまりそれは弓兵が犬達にとった行動の証。
「テメェなんぞもう一度モフモフにされてしまえ」
「うわ、ちょっと待っ……キャスター!」
けしかける言葉。
主の意図を汲み取って即座に動いた二頭は椅子から弓兵を引き摺り下ろして文字通りぎゅうぎゅうもふもふとやりたい放題。
「待て、顔は勘弁してくれ。こら!」
あちこちをべろべろに舐められながら、エミヤは犬達に手を伸ばす。
宥めるために仕方なくだ、と言い訳が聞こえてきそうな撫で方に、寝台の上で高見の見物を決め込んだ男は目を細めた。
「なんだぁ? 随分と楽しそうじゃねぇか。そういえばアニマルセラピーの感想を聞いていなかったが、どうだい?」
「どうも、なにも。待て、そこはだめだ!」
狭いところに鼻先を突っ込みたがる犬達を押し留めて、それ以上の行動を封じるようにぎゅむ、と首筋に抱きつくような体勢になる。
犬達もそれ以上は強引な手段に出ず、抱き込まれたまま、弓兵の腕に鼻先を乗せて動かなくなった。
果たして癒されているのは弓兵か。それとも満足気な犬のほうか。
「たとえ本物ではなくても一定の効果は保証される、というのは認めざるを得ないというところかな。だがキャスター、これ以上は私には不要だ。他に必要としている者のところに派遣してやってほしい」
例えばマスターの少年。通信越しに聞いた羨ましそうな声を思い返す弓兵の穏やかな笑みは、いつも通りの、自分を幸せの範疇から外に置くためのもの。
「そうかよ。だがまあ、そいつらの意志ってモンもあるからな。現状をオレに言ってもどうにもならんぞ」
自ら考えて行動する高度な使い魔は、複雑なことをこなせるかわりに好みも存在する。犬達にとっては嫌なことをせず、おいしい食事をくれる弓兵は好きの部類に入るのだろう。
主人が制止せず、積極的にけしかけるという背景もある。
「そいつらはだいぶお前さんを気に入ったみたいだからな。しばらく玩具にされる覚悟はしておけよ」
男は楽しそうに笑う。自分に止めるつもりはないと告げながら。
「む……君たちの主人はああ言っているが、言いなりでいいのかね?」
ぴくぴくと耳を動かしている腕の中の犬に語り掛ける弓兵は不満の中に好奇心が滲む。
大きく首を振って弓兵の腕から逃れた犬達は、器用に寝台に上がると、男の背を押して床に転がした。
「痛ってぇ……何しやがる!」
「うわっ、私もか!」
ある意味でそれは青の魔術師の思惑通り。
床に落とした男と青年は隔てなく一緒にモフモフされ、存分に玩具にされた後、満足気に寝転がる犬達に膝を提供する羽目になっていた。
「自分で体験してみた感想はどうかね?」
「あー……まあ、それ自体は悪くねぇ……が、なんだってこんなことになってやがんだ?」
「それは私が聞きたいのだがね」
互いの背に背を凭れさせながら、気持ちよさそうに寝そべる犬達の額を擽る男二人。
お互い背を向けているのをいいことに、笑みを零して。
青年は犬達を起こすのは忍びないと言い、動けないことを言い訳に、触れた背から感じる相手の温度を振り払うことはしなかった。
触れたところから伝わるのは温もりであり、滲む相手の魔力。
それが不快ではないことを示され、気を良くした男はぐいぐいと体重をかける。
「重いぞ」
「ケチ臭いことは言いなさんな。なあ、アーチャー」
「いらん。それに彼らが起きてしまうだろう」
わずかに声色が変わったことを察して、何かを言う前に牽制してくる弓兵に気付かれないように溜息をひとつ。
「使い魔みてーなモンなんだからそんな心配は無用だろうが。それに……」
自分の分の菓子を作る気がないなら別のものをよこせと言って笑う男に弓兵は眉を寄せた。
「君が食べるというのなら作るのは嫌ではないと言ったはずだが?」
「他のもののほうが好みだとも言ったよなあ」
なあ、アーチャー。
意図的に熱を孕ませた声でもう一度呼ぶ。
器用に体重をかけたまま体勢を変えた男は、背後から抱きつくようにして青年を拘束すると、喉元に唇を寄せた。
軽い愛咬。
青年が息を飲む。それでも抵抗を悩んでいる様子なのは詫びのつもりか。
肝心なところで伝わらない鈍さに辟易することもあるが、詰めの甘さに笑うこともある。
逡巡の後、青年から零れたのは呆れを多分に含む溜息だった。
「……悪食め。腹を壊しても知らんぞ」
「へいへい。ありえねえから心配すんなよ」
からからと笑う男と対照的に青年は仏頂面。意趣返しとばかりに、少しは犬たちを見習えなどというどうでもいい小言が落ちた。
それならば本当に犬達に倣ってやろうかと考える。
「まったく……ステイもできないとは犬達よりもタチが悪い」
「野生の犬が従順にヒトの言うことなんぞ聞くかよ」
「ふむ。それもそうか」
どうにも甘やかにならない会話に痺れを切らして、男はもう一度青年の首筋に噛み付いた。そのままべろりと舐め上げてやる。
まるで犬のような仕草に、青年は擽ったいと身を捩った。
さんざんけしかけたおかげか、青年にとってはどうにもまだ犬にじゃれられているような気がするのだろう。
元が同じなのだから当然だが、触れて感じる魔力は先ほどまで弓兵にじゃれていた犬達も、今のしかかっている男も同じ。だからこそ普段なら鉄壁のはずの青年のガードが少しだけ綻んでいる。
それならそれで好都合だと、気付かれぬように男は笑みを落として。次はどの手でいくかと思案を巡らしながら、とりあえず満足するまで目の前の獲物を堪能することに決めた。
2018/03/21 【FGO】