ハロウィン2020

 厚い雲の間から薄く月明かりが零れ落ちる。
 それらは蔓薔薇のアーチに阻まれて地面に辿り着くことが出来ず、棘に散らされた。
 仄かに灯るランタンの火に煽られた男の美貌が揺らめく。
 声にならない呟きとともに薄い笑みをみせたのは、そんな男の前に膝を付き、鋼色の瞳を見開いた青年であった。
 ほとんど息だけで紡がれたそれをしっかりと耳にした男の口角は上がったが眉は下がり気味。
 どこか判断を迷う様子を見せながらも憧憬すら見えるような視線に喉奥で笑みを噛み殺すと、血の色を写しとったような瞳を細めて、ずいと身を乗り出した。
「さて……今の言葉、オレはどうとればいい?」
 しゃらり、手にした鍵束を揺らして誘う。もう一度告げてみろと暗に告げるそれに、青年は目を伏せた。
「……君の好きなように。クー・フーリン」
 たっぷりと間をあけて。次に見上げた瞳の奥には笑みの余裕さえ滲む。応えるように獰猛に男は笑った。
「よく言った。では今宵、その身全てを貰い受けよう」
 少しだけ身を引いて。手にあった鍵束はくるりと返された手首の動きに合わせて男の手首でちゃりりと笑う。
 構わず伸ばされた指先は青年の腕を引いて、立ち上がることを促した。
 逆らわずに身を任せ、男の胸の中に落ちたのは柔らかさの欠片もない男性の体ではあるけれど。大きく開いた首から胸元へと指を滑らせれば、仄かに色を纏う。
 優しくて絶倫なクー・フーリンは青年の迂遠な誘いを是とし、腰に回したての先でしゃらりと鍵を鳴らした。
 次の瞬間に彼らの姿はその場になく。
 ぽつりと残されたランタンに描かれた口が、光の届かぬ石畳にゆらと笑いの影を落としていた。

2020/10/31 【FGO】