名無しの短文01
キャス弓
ひょい、と。身軽に岩を飛び移る白い毛玉を眺めながら、青年は身体中に広がる痛みで目が締めた。
「気が付いたか?」
「……キャスター?」
「おう。キツいようならもう少し休んどけ。見張りがいるから遠慮せんでもいい「彼らは、レイシフト先でも実体化できたのか……」
言葉を選ぶ前にだだ漏れだ感想に吹き出した男は、そりゃああれも自分だからと笑う。
「必要なら出てきてもらうさ。こういう、目を分散したいときとかな」
「分散して、どうするんだ?」
「聞くまでもないだろ?」
ふわり。魔力の甘さが喉奥に落ちて。じわりと滲むあたたかさに身を任せた。
狂王弓
冬枯れの木立の向こう側がゆっくりと白み始める。
身動ぎした青年はゆるく首を振って、纏わり付く気怠さを引き剥がそうと試みたが徒労に終わった。
少し頭を冷やすのもいいかと、体を休めていた軽装のままに寝床を抜け出す。
たかがガラスの扉一枚。だが確実に外気を遮断していたそれを開け放てば、湿った匂いと共に容赦のない冷気が肌を刺した。
夜露が凍るほどではなかったのだろう。さくりと踏んだ草の先が爪先を濡らす。
白く、息を吐いたと思った矢先に伸びてきたのは見慣れた黒の尾先。
とこにいく、と。不機嫌そうな声が追いついて、回り込んだ尾は一切の容赦なく青年の身を拘束した。
「さみぃ」
「そうか、それはすまなかった」
逆らう意思はないと尾の先端を擽って示せば、了解したとばかりにもう一度室内に引き込まれる。扉は閉じたが、一度冷えた室内は寒いままだ。
「狂王?」
返事はなく、ただ背に触れる相手の体温が熱い。この状態で寒いのかと首を傾げてから、ようやく気付く。
「そうか」
寒いと思ったのは自分だったか、と。
今朝はもう抜け出せなさそうな尾の拘束の中で、彼はうっすらと口角を上げた。
2020/11/24 【FGO】