夢からの脱出
「夢か」
「夢だねぇ」
なんで自分が。声を揃えた二人の表情には、側から見てわかるほどありありと疲労の色が浮かんでいる。
「まあよい……医師よ。他人のサーヴァントを引き摺るほど疲労が溜まっているならいっそここで解消していけ。それでは仕事に戻ったとて、使い物にならんだろう」
人は夢を見るが、サーヴァントは夢を見ない。なれば。ここが夢なのだとしたら、それは崩れかけたポニーテールをさらに崩すように頭を掻いているゆるふわな医師のものであるのは疑いようが無い。
少し……いや、多分に他の者の手が入っているとしても。
「え、嫌だよ。だってここ、アレの領域でしょ」
「であろうな。ではこうしよう。戻って錬金術師に薬を処方してもらうか、この場に留まって回復させるか」
選べ、と。告げられた選択肢には慈悲がない。
それはあんまりだろうと抵抗する青年の叫びに重なるように、至極楽しそうな笑い声が響いた。
「王様は面白いことを考えるね。確かにそれは究極の選択だ」
ふわりと花の香りが抜けて、その名を冠する魔術師が姿を見せる。
「出たな、最強のロクデナシ」
「……ねぇ、王様。第一声でこれは酷いと思わない?」
「何をどう言おうが、貴様がロクデナシという事実は変わらんだろう。拘うだけムダだ」
「こっちもひどっ!」
戯れめいたやりとりに溜息を落として。青年は仕事が溜まっているから帰してくれと本気の懇願をする。
「そんな風に頼まれたら仕方ない、と言いたいところなんだけどねぇ。残念ながらこの仕掛けの主は私じゃない」
自分の術式では無いから解除などできるはずもないと笑って告げる。
青年の表情に浮かんだ絶望と焦燥を見る二人様子は全く変わらない。おそらく予想の範囲内なのだろう。
「まあ、体は若い頃の我がどうにかするだろう。アレもオレであるが故にな。理解は早いはずだ」
金色の王は未来を見通す存在である。なればいち早く状況を察して最低限のことはするだろう。面白い展開になりそうなら多少の労を惜しまないところは、今も昔も変わらない。
呆然とした青年に、追い討ちのように金色の王様の声が後頭部を殴りつけた。
「ということで、八方塞がりのここから脱出するために協力したいんだけど、どうかな?」
「それ、王様の選択肢より選択肢になってないんだけど」
意識が明瞭であるが故に、眠っているという感覚は薄い。管制室にいた時のように生理現象としての睡魔も、空腹を感じることも無い状況は 、人間よりはサーヴァントに近いだろうか。
僅かに目を伏せて溜息。
仕方ない。唇からは諦めの声が押し出された。
次の瞬間、ばさりと髪を解き、きっちりと結い直す。
「こうなったら二人とも協力してもらうからね!」
「フン……よかろう。せいぜい面白く足掻いてみせるがいい」
「王様、それ悪役のセリフだよ。まあ、私も同感ではあるけどね」
このロクデナシどもが、と。
思わず飛び出しそうになった罵倒を飲み込んで、青年はくるりと踵を返した。
2019/12/26 【FGO】