星雨のポラリス

「よぉ、嬢ちゃん。招待ありがとよ」
「クー・フーリンさん!」
 先日完成したと告げられたプラネタリウム・ルーム。その入り口でタブレット端末を手に来場者の対応をしていたのはマシュだ。
 気軽に声をかけた男の名を呼んだ彼女の肩には助手よろしくフォウくんが佇んでいる。来場者を捌く役には立たないが、見慣れた光景に和む程度の効果はあり、よく見ていれば鳴き声で次に来る者達の人数を伝えているのもわかった。
 思わず苦笑する。
 招待はマスターと連名だったが、その姿は周囲に見当たらない。
 当然の疑問として男が問えば、最終確認中だと応えがあった。
「上映中の解説は録音なのですが、最初と最後のアナウンスだけはそうではないので」
「ああ、なるほど。そこはお楽しみってワケだ。そんじゃ聞かねぇよ」
 このプラネタリウム・ルームが完成した際に、ダ・ヴィンチの声掛けで上映会をしている。
 その際、どうせなら身近な話題がいいだろうとケイローンやデュオスクロイを招き、彼らにまつわる星座について勉強したのだということは聞いていた。
 そうなると次は他のサーヴァント達が息抜きに楽しめるものにとなるのは自然な流れ。
 貰った招待状にも記載されていた通り、今回の上映会はその時の経験を活かし、マスターとマシュが解説するギリシャ神話を元にした星座が中心という話であった。
 なんとなくあまり関係がよくない者同士が隣にならないように配慮されているのではと推察した男は、席は決まっているのかと問う。
 ある程度は仕方のないところもあるだろうが、さすがにペンテシレイアとアキレウスを隣にするような恐ろしい真似はしないだろう。自分の場合は誰の隣に入れられても特に問題はないので、決められていても文句を言うつもりはない。
 マシュは少し申し訳なさそうに頷いて、諸事情から先に決めてあると告げた。
「クー・フーリンさんの席は、A3です。楽しんでいってくださいね!」
 男は返答代わりに手を翻しただけで指定された席に向かう。
 フォウくんが激しく声を上げたのが同時。
 どうやらちょうど団体様がお付きのタイミングだ。対応にかかりきりになったマシュは忙しそうだが楽しそうで、この企画は彼女達にとっても息抜きなのだと理解できた。
 ひそりと笑みを零して夕空が投影されたドームの下を歩く。
「んー……こっちがCだから向こうか」
 座席の背もたれ上にあるプレートを頼りに進む。
 まだ空いている席も既に埋まっている席もあるが、どうやら近しい神話系統か特異点修復時に協力した者同士のような括りで纏められているらしい。
 それならば自分の近くにくるのはケルト勢だろうか。叔父であるフェルグスであれば構わないが、スカサハやメイヴだった場合はそっと逃げ出したい気持ちになる。
 席の並びがアルファベット順になっているのなら予想はできたことだが、どうやら指定された席は一番北側。端から三つほど内側に入ったところらしい。
 既に手前の席に座っている小柄なサーヴァントがいたため、声をかけようとしてそのまま固まった。
「……ゲッ」
「ゲとはなんだゲとは」
 出そうと思ったわけでもない声は勝手に漏れ出たらしい。硬い声音で咎められて、反射的に謝罪を紡いだ。
「悪かった。アンタを貶める意図はないし、喧嘩を売る意図もない。ただ、なんでこの並びなのかと思ってな」
「それに関しては私も同意できるため不問としよう。そろそろ時間だ。さっさと席に着け」
「へいへい」
 さすがに甲冑姿ではないセイバーオルタと、その隣で不機嫌さを隠そうとしない赤い弓兵ことエミヤの前を抜け、指定された席に座る。
 視線を巡らせて反対隣を見れば、これまたなぜと問いたくなるがイシュタルである。その向こうにはパールヴァティの姿も見えた。
 そこからさらにジャガーマン、シトナイ、カレンと続いている。
 メドゥーサとヘラクレスがいないのはギリシャ枠に入れられたか今回の解説内容に含まれるために除外されたかのどちらかだろう。
 周囲をぐるりと取り囲んでいた照明が落とされ、ぼんやりと浮かび上がった天球を見上げながら、この並びにしたのは本当になんでだよと声に出さず思う。
 作り物の天球に投影されているのは夕刻の空。少しだけ緊張の色が窺えるマスターの声が来場の礼と今回のプログラムの概要説明を始める。
 日が暮れ、星が瞬き、マスターとマシュの声に従って視線を移動した先で星と星を繋ぐ線がその星座を表す絵を浮かび上がらせていく。
 始まりの季節は夏。
 浮かび上がった星空には地平に向かって流れ落ちるように天の川が走っていた。
 まずは初心者にも見つけやすい夏の大三角について。
 続けてさそり座とそれに弓を引く射手座の話。
 ヘラクレス座、へびつかい座、てんびん座という、そこまで明るい星がなく見つけにくい星座達だが、このカルデアでは重要なサーヴァントである彼らの姿。
 アンドロメダ座とカシオペヤ座、ケフェウス座、ペルセウス座というアンドロメダを中心とした物語。
 最後にペガスス座へと繋がり季節は秋から冬へ。
 オリオン座とおおいぬ座、こいぬ座。諸説はあるとしながらも、双子座と牡牛座の話。
 穏やかな掛け合いとともに進んでいくマスターとマシュの解説は耳に心地よい。
 最後は天球上の星がぐるりと巡り、季節を駆け抜けた。
 ひとつ、ふたつ。間を縫うように時折明るい筋が流れていく。
 それらは次第に数を増やし、季節が一巡りする頃には天球中を覆うほどになった。
 現実にはありえない流星雨。
 マスターがこのプログラムの最後にその光景を選んだ意味を、無言のまま揃って天を見上げるサーヴァント達は識っている。
 ありがとう、と。最後の礼を告げるマスターの声は少し震えていた。
 録音ではない、生の声。
 星の物語に紛れさせた感謝は、正しく裏に込められた意味までをサーヴァント達に届ける。
 だからこそ。
 退場を促すアナウンスに逆らい、隣に邪険にされながら。最後の一人になるまで待ってから立ち上がったクー・フーリンは、真っ直ぐに歩を進めてマスターの前に立った。
「えっと……クー・フーリン?」
 ことりと首を傾げたマスターへ。戸惑いを笑い飛ばすように告げる。
「アンタはアンタの星を追うんだろ?」
 沢山の流星に囲まれてなお目指す先。
 不敵に笑う男に合わせるように破顔したマスターは力強く頷きを返した。

C107無配。「英霊と巡る星々の物語」の設定でのお話でした。

2026/01/04 【FGO】