Toy or XXX

 エミヤは苦悩した。
 自室の寝台の上に正座し、太腿の上に乗せた拳をぎゅうと握り込む。
 視線は少し乱れたシーツの上に注がれている。しわになった白い海の間には、どこか不釣り合いな色が浮かんでいた。
 ホットピンク、あるいはショッキングピンクをしたそれは、明らかに異質である。
 仮に誰かが目撃したとしたら、誰かの悪戯だと笑い飛ばすか、何らかの異常をきたしているから対策をとの報告が上がるだろう。
 本人もわかっているからこそ思いつく限りの対策を取った上でこの場にいるのだが、どこか落ち着かない気持ちがあるのも確か。
 ちらり。視線が流れた先は時計。並んだ数字が示している時間は真夜中も真夜中、所謂丑三つ時と呼ばれる頃合いだ。
 マスターはすでに眠りについており、それをあえて邪魔しようというサーヴァント達も居ないカルデアは静まり返っている。もちろん、締め切り前の作家陣のように夜中こそ筆が進むとばかりに全力で活動している者も中にはいるだろう。
 重要なのは時間帯ではなく、この部屋に訪れるものは居ないであろうとほぼ確信できる点にあった。
 カラカラに乾いた喉を無理矢理飲み込んだ唾液で潤してシーツの海に手を伸ばす。
 こつり、爪の先がぶつかるのが予想よりも早く、驚いたエミヤは肩を震わせた。
 小さくはないはずの青年の手にすら余る大きさを持つそれは、女性が好みそうな色合いに反して大変可愛くないサイズをした物体であった。
 思わず漏れそうになる悪態を噛み殺し、そろりとてのひらのなかのものを確かめる。
 少し硬めだが滑らかな感触、ほとんど凹凸がなく緩やかなカーブを描いた形は完全に玩具といった雰囲気だ。もっとも、その形状と素材選びに無意識の葛藤が現れているのだが、別の葛藤と戦っている青年は気付かない。
 深く。決意するように瞳を伏せて息を零す。
 寝台近くの操作盤から入力された通り徐々に光量を落とした照明が淡い蛍のような薄灯りで安定した。
 ぼんやりとした闇に目が慣れてくる。
 枕をクッション代わりに壁に凭れて膝を立てると、ボトムスだけを魔力に還して下半身を露出させ、大人しく項垂れたた己のものを薄目に見ながら溜息を落とす。無造作に持ち上げて適当に抑えると、奥へと手を伸ばした。
 触れた後孔の縁は僅かに濡れている。広げるように指を這わせれば簡単に二本の指を食んで、内部からとろりとした粘液を溢れさせた。
「準備は……問題、ない……ッ……な」
 ぐるり。軽く内側を掻き混ぜて、仕込んだローションの状態を確認しながら手にしていた玩具の先を充てがう。
 滑りを移すように広げながら潜り込ませれば、押し広げられる圧迫感が伝わった。
「……ん、ぅ」
 特に張り出したところもないそれは難なく身を埋めて、じわりじわりと奥まで異物感を伝えてくる。
 本当にこんなもので大丈夫なのか。
 不安に駆られた彼が少し体勢を変えようと身動ぎした瞬間に半分が飛び出す。動転した青年がさらに大きく動いたせいでシーツの上に全身を投げたそれは滑りを纏ったまま打ち上げられた魚のようにピンクの体を滑らせていき、思わず頭を抱えた。
 しかしエミヤである。己の身体だけではなく、使用する器具、寝台周辺まで含めて準備は万全で、シーツも防水仕様の投影品という徹底ぶり。つまり、多少の事故が起こったところで被害はない。
 唯一、彼の精神を除いて、だが。
 なんでさと零した声と共に逃げていった気力ゲージには完全にエンプティマークが点灯している。もはや続きをするような気分ではないが後始末をしないわけにもいかない。
 盛大な溜息を落としてよろよろと立ち上がった彼は、失敗した腹いせのように殊更丁寧にピンクの玩具を清めると、壁を繰り抜くように設らえられた寝台脇の棚に仮置きする。
 部屋の明かりを完全に落とし、再度の溜息と汚れたシーツを引き摺った彼は緩慢な動きでシャワーブースへと消えていった。
 夜はまだ深く。空調の整っている部屋内は青年が戻ってくる頃には何事もなかったかのように欲の残り香すら感じさせない。らしかぬことに、戻ってきたエミヤは濡れ髪のまま、汚れることがなかった寝台に倒れ込んだ。
 悪態をひとつ。そのまま意識を閉じた彼が朝には別の悪態を落とすことになるのだが、鍵がかけられた部屋には指摘する者もおらず、ただ冷えた空気だけが降り積もっていった。

 ***

 ぼんやりと。瞼ごしに光を感じる。
 外の光が入らないカルデア内では時間の経過がわかりにくいため、時間によって照明の基本光量が決められている。シフト交代による生活時間帯の差や本人の性質等が影響することも多いため、個々人の部屋内で個別に明るさを決めることは可能なのだが、特に問題がない場合は自動設定が推奨されていた。
 朝だなと認識するには少し早いのだが、構わず青年は瞼を押し上げる。
 ほぼ白一色の部屋の中で、視界の端に不似合いなほどピンク色をした物体が紛れ込んだ。
「……最悪の目覚めだな」
 きちんと最後まで片付けをしなかった昨晩の己に文句を溢して片手で視界を塞げば、あの日もこんな体勢で目を覚ましたなと思い出す。
 どこか苦笑を滲ませた声が耳に返った。そのまま思考は過去へと飛んでいく。
「少し張り切りすぎたかねぇ……」
「何か問題が出ているかね?」
「いんや。だが、今後可能性はあるといったところか」
 ふむ、と。青年は己の体を見下ろした。
 基本的に働きすぎているというよりは状況的に色々な場面で武器以外の投影を行うことが多いエミヤの魔力量は常に不足気味のため、性欲発散のついでであってもカルデアの電力に頼らない魔力の融通は非常に有り難い話である。だが、気になることがないわけでもない。
「ランサー、私も少し気になることがある。ちょうど夏に差し掛かるため、ふざけた微小特異点が発生する可能性が濃厚だ。可能であれば少し間をあけるというのはどうだろうか」
「そうさな……あんなトンチキな事態がそうそうあってたまるかという気はするが、否定する材料もないわな」
「可能であれば平和に過ごしたいというのには私も同意するが、先日スカサハ殿が水着霊基になっていたという情報があるんだ」
 槍兵が思わず悲鳴を上げたのは仕方のないことだっただろう。
 食堂には色々な人物が出入りするため必然的に情報が集まる。その一端を開示した弓兵がまたしても荒れた夏になりそうだなと苦笑したのに続いて、まったくだと声を上げた男は盛大な溜息を落とした。
「師匠のターゲットになるならおまえさんよりオレだ。まあ完全に別方面に行く可能性もあるが備えておくには越したことねぇし、その提案のんでやるよ。期限は……そうさな。三週間程度でどうだ?」
「契約成立だ。必要最低限以外話しかけることもしないが、構わないな?」
「いいぜ。ただテメェの魔力が減りすぎてんの見たら口出すからな。避けたかったらちゃんと休息はとりやがれ」
 彼が予告をするのは珍しい。普段ならば無言のまま見守り、必要と判断した時に手を出すスタイルだ。
「肝に銘じよう。君はやると言ったら本当にやるからな」
「おまえさん相手なら予告も一手だろ。そんじゃ先行くぜ」
 お互い特に打ち合わせもしていないが、彼が出ていくのなら自分はしばらく待機だと判断してベッドに転がったまま天井を見上げる。
 この部屋はクー・フーリンに割り当てられたものであるから、本来ならばエミヤの方が出ていくべきであったのだろうが、先を越されてしまった。
 昨晩はずいぶんと酷い姿を晒した気がする。
 目元を覆ってしまえば見えない分を補おうと他の感覚が鋭敏になった。
 鼻腔をくすぐるのは昨夜の残滓。
「これらの洗濯もしなくてはな」
 自ら言い出したこととはいえ少しだけ残念だ、などと。起き上がりながら自嘲する。
 シーツとその下に敷いてあった厚手のタオルを剥いで予備の新しいものと交換し、いかにもそれらを回収しただけだというような素振りでクー・フーリンの部屋を出た。
 早朝と一言で表すとわかりにくいが、時間はそうとう早い。
 この時間ならば槍兵が向かった先は畑だろう。状態を確認したらすぐに部屋に戻ってくるに違いなく、エミヤが時間差で部屋を出てから汚れ物の処理をするつもりなのだろうことも理解できてしまう。それを差し引いたとしても部屋を出るついでに持っていったほうが早いのも確か。彼に告げた〝気になっていること〟を改めて確認するチャンスでもあることからわざわざ逃す手もない。
 真っ直ぐにリネン室に向かい、部分洗い用の水場に陣取ると、汚れている箇所をひとつずつ手洗いで落としながら思考を巡らせる。
 気になっていることというのは他でもない、彼との行為についてだ。身も蓋もない言い方をすれば、精液の飛散具合である。
 魔力供給という目的があることも手伝って、基本的にクー・フーリンはエミヤの中で達することになる。続けて何度かされた場合は溢れることもあろうが、シーツの汚れはほぼすべてエミヤのものであることは確か。
 細かく確認してみれば範囲はごく狭く、一部は乾き切ってから相当な時間が経っていた。
 導き出される結論はあまり楽しいものではない。
「ふむ。こうして改めて突き付けられると少々堪えるな……改善に必要なことならば目を背けてもいられんだろうが」
 改めて汚れを落としたシーツを洗濯乾燥機に放り込み、ついでに他の洗濯物も処理していく。証拠隠滅をしている気分になるが、あながち間違いでもないところが苦い。
「あれ? あなた、今日は当番ではなかったような?」
「聖女殿か……なに、うっかりでシーツを汚してしまってね。仕上がりを待つついでの手慰みだよ」
 手は止めず苦笑したエミヤの隣にマルタが並ぶ。酔っ払っていたのかとの軽口にはそんなようなものだと返して。籠を持ち上げた瞬間に取り上げられた。
「これは今日の私の仕事です。あとは任せて」
 元ヤ……聖女様の有無を言わさぬ口調に逆らうことなどできはしない。軽く手を上げることで降参の意思を示した青年は後を頼むと引き攣った笑顔で続ける。
「はい、任されました」
 それじゃあ早く部屋に戻って。敗者に下された命令までを思い出した青年は思わず吹き出してから我に返った。
 どうも回想の途中から半分眠っていたような気がする。
 情事に使ったシーツを畳むだけとはいえ他人に任せたことを思い出すと居た堪れなくなるがあの状況ではどうにもならなかった。
 次はもっとうまくやろうと決意し、改めてきちんと起き上がる。
 放置していた玩具を手に取り、少し考えてから一つの箱を投影した。
 表面は金属。薄いトランク型をしており、鍵と底鋲が付いた形状は所謂アタッシュケースと呼ばれるもの。
 鍵穴も一見すると一般的なものに見えるが、実際のところは魔法鍵になっている。
 青年の魔力に反応して解除され、開いた箱の中身はもちろん空だ。手にしていたものを納めて何事もなかったかのように蓋を閉じた青年は備え付けのロッカーの端へと押し込む。
 もちろんそういう趣味があるわけではない。断じてない。
「まだまだ……だな。だが時間はある。なんとかしてみせよう」
 本日は午前中が休み。
 昨晩は肩透かしをくらったため予定が狂ってしまったが、それはそれ。調べ物に充てる時間ができたとでも思えばいいだろうと割り切って、青年は寝台の端に腰を下ろすと端末を取り出した。
 人理が修復された今はネットワークも外部と繋がるようになっており、インターネットの海に漕ぎ出せば調べ物に困りはしない。
 検索内容が少々憚れるものである自覚もあるが、管理者に見つからないようにするのは無理だと知っている。
 ならばここは開き直って口止め料として菓子でも差し入れておけばいいだろう。
 こうしてエミヤの奮闘は始まった。
 まずは毎日の骨盤低筋トレーニング。それと合わせて日常生活に支障がない程度の間隔を空けながらいわゆる大人の玩具を投影して使用し、トレーニングの成果を確認しながらもきつくなりすぎないように調整していく。
 使用後のものはロッカー端に押し込んでいた箱の中へと反省点と次回の課題を洗い出して収納されていった。
 少しずつ改善されていく玩具の知識で、試してみるリストは回を追うごとに増えていく。
 トランクの中身も、一般的な男性器を模したものから動くもの、果ては謎の形をしたものまで。材質もシリコンから金属、ガラスなど多岐にわたっていた。
 恐ろしいことにこの男、行動に関して問題解決のための鍛錬としか思っておらず、使用済みのディルドコレクションを作っているなどという、変態と謗られても仕方のない己の行動に関して無自覚である。もっとも、最終目的がなんであれ、保管している理由が性能改善のためであるからプログラムをアップデートしようとログを残す技術者やボディビルディング中に記録を取る選手のそれと大差がない。
 そうして、彼がそろそろ次の段階に移るべきかと結論を下したのは、日々の鍛錬が二週間を数えたある日のことであった。

 (中略)

 どこかぞわりとした感覚。熱が腹に溜まるような気配に勝手に肌が粟立つ。
「久しぶりに彼の声を聞いた、な」
 そんな些細なことで熱が上がるのかと己を笑うも、今ならばという気持ちが勝った。
 イメージしろ。最強のクー・フーリンを。凶器ともいえるものを。己に言い聞かせて魔力を走らせる。
 小さく動いた唇が紡ぐのは暗示の言葉。
 魔力が形となり青年の手の中に現れたものは間違いなく特定の人物の男性器を模したものであった。
 はたしてこの男は一体何に対して全力なのだろうか。ツッコミを入れる者は皆無なため、謎のやる気はさらに斜め上へとかっ飛んでいく。
 改めて手にしてみればその大きさがよくわかる。
 先端からくびれあたりを指先でなぞって。本当にこれがいつも己の中に入っているのかとの疑問も浮かぶが、試しに口内に引き込んでみれば圧迫感が間違いないと伝えてきた。
「我ながらなかなか……ふむ。素材感はどうにもならないが、色や形は申し分ない」
 体の奥に熱が灯るのを感じながらシャワールームへと駆け込む。理由は単純で、後処理がしやすいことから日々のトレーニングをそこで行っているためだ。
 マッサージオイルに擬態させているローションのボトルを手にとり、迷うことなく後孔に指を伸す。礼装は瞬時に霧散し、冷えた空気に触れた肌が震えた。
 気が急いているのか。乱暴になっていく手付きも今は気にならず、むしろスパイスになっている疑惑すらある。
 壁面に額を懐かせて息を零す。
 とろりと溢れ、流れ落ちたローションが盛大に内腿に線を引くのは分量を誤っている証拠なのだが、青年は気付くことなく指を動かし、狭くなったそこをひらいた。
「ぁ……んぅ」
 ぐちゅぐちゅと掻き回される水音が狭いブースに反響するのにはもう慣れたが、己の喘ぎを聞き続けるのは苦痛を伴う。
 手にしたままだったディルドに舌を這わせることで一緒に声を飲み込んで、挿入する指の数を増やしていく。
 はたり、はたり。
 温められて押し潰され、塗り込まれるよりも掻き出されるようになったローションが地面に水滴を描くようになってようやく青年は己の指を引いた。
 その場に座り込むように体勢を崩しながらも唾液塗れにしたディルドを床に立て、滑る指で位置を合わせる。
「は……っ、く……きつ……ぃア!」
 限界まで押し広げられた場所がさらに押し広げられるような感覚は久しぶりだと冷や汗を振り払って苦笑を落とす。
 どこまでも規格外の大きさをしおって。悪態も言葉になることなく喉の奥に消え、代わりに吐き出されたのは浅く荒い息だ。自ら臀部を掴んで広げるようにしながら腰を落としていき、ようやく張り出しの一番太い場所まで埋めることに成功した。
「まるで最初の頃の……ようだ、な」
 一度受け入れてしまえば、塗り込めた潤滑剤の手を借りてすんなりと奥まで進んでいく先端が内壁を擦り上げていく。
 忠実に模したものとはいえ熱はない。魔力の気配もない。ただの塊を奥まで受け入れた青年は、汚れた指先で壁を引っ掻き、かすかな呻きを零す。きつくはあるが奥はすっかり慣れ親しんだものの形を覚えており、ぴたりと隙間なく咥え込んでいた。
 まったく浅ましい。自嘲は勝手に口から滑り落ちる。
 相手が物ならば食いちぎる心配はしなくてもいい。極太のそれを咥え込んだまま後孔を締める動きを繰り返し、完全に引き抜いてから挿入する動作を何度か行う。
「これくらい、か?」
 全く動かせないほどきつくもなく、かといって特段ゆるいというわけでもなく。少しだけ引っかかりがある程度での挿入が可能になったところで青年は動きを止めた。
 中途半端すぎる刺激を繰り返したため、熱が上がりきらず半分ほど芯を持って揺れている前を引き寄せる。ローションでぬるつく指で作った輪を潜らせるように刺激しながらゆるく腰を揺らせば確かな快楽が背を駆けた。
「ぁ……ッう」
 だというのに望んだほどの熱を持ったものは訪れず、むしろ意識すればするほど後ろに埋められたものへの違和感に頭が冷えていく。

 (中略)

「なあ、オレがいない間、アイツ使って自分でシてたのか?」
「さて……あれをその範疇に入れていいものか」
 エミヤの声色は変わらず、どこか迷う響きが混じった。ちゅ、と。首筋にわざとらしい唇が触れて、続けて触れていく舌が筋を辿る。
「へぇ。じゃあ最初からだな。久しぶりなんだ、優しくしてやるよ」
「……どこをどうやったらその結論になるんだ?」
 エミヤが慌てたように必要ないからさっさといれろと膝を立てたのは、こうすると決めたクー・フーリンが宣言を撤回することがないと知っているからだ。
「無駄だぜアーチャー。もう決めたからな」
 押しのけようとしたエミヤの腕を逆に掴んた男が会心の笑みを閃かせる。薄暗くて見えにくいとはいえ、目が慣れてきたころにそれを正面から拝んでしまった青年は撃沈した。
 綺麗なクリティカルヒット。そしてオーバーキルである。
 文字で表すならばぐふっ。もしくは、ぐはっ、だろうか。妙な叫びと共に顔を覆って動かなくなった弓兵に対し、なんか懐かしいなあとのんびりした呟きを落とした男はするりと彼の膝を割った。
「え、あ……ランサー、何を……っ」
 精神ダメージから回復しておらず抵抗が弱いのをいいことに己の体ごと捻じ込んだ男は膝裏を掬うようにして両足を抱え込む。
 重なり合うようにすれば体温は近く、唇が触れる先は心臓の位置。
 いつの間にか男が手にしていたはずの玩具はシーツの波間にまぎれてしまっていたが両者とも気付いた様子はなく、競うように相手の肌をなぞって熱を上げていく。
 汗が伝う。
 男の手は、舌は。それぞれ別の生き物であるかのように動いて的確に青年の快楽を引き出せる場所を狙った。
 ぷくりと育った胸の先端を舐られ、弾かれれば声が引き攣れる。全身を回る熱に翻弄されている間に、ぬるりとしたものが会陰を滑っていった。
「……ッ!」
「そんなカオ見せられたらこっちが先にイっちまいそうだわ」
 告げられた内容が事実であることは表情がなによりも雄弁に物語っている。
 わざとらしく口角を上げて。もう一度しゃぶってやろうかと問えば、そういう気分じゃないと流され、それよりももう触れていいかと告げる声が掠れて落ちた。