99%の満月

「残りの一パーセントのぶんって、どのあたりなんだろうね?」
「さあな」
「あ、冷たい」
「どうでもいいだろう」
そんなことは、と続けようとした唇は掠めたものによって塞がれる。
一瞬の空白を置いてくちづけてきた相手を振り切った青年は、即座に自らの牙をとろうとして相手の腕に阻まれた。
「手が早いよ、シリル」
くすくすと男が笑う。
「あんたほどじゃない」
冷たく言い返すシリルは、こうやって捕まったときにはそれ以降どんな抵抗をしても振り切れないと分かっていた。
なにより、相手は敵ではない。
随分と甘くなったと己を笑って、シリルは力を抜いた。同時に離せと相手に要請する。
「このままキスしてくれたら離してもいいけど?」
バカか。とは思っても言葉にはしなかった。
あっさりとくちづけられて男の腕から力が抜ける。
見逃さずに男の腕を逃れたシリルは銃をとることはなく、無言で背を向けた。
一歩踏み出しかけた瞬間、再び男の腕の中。
「……ジェイド」
「無防備に背なんか向けるからだよ」
うれしくてつい。
咎めるように名を呼ばれたのも気にせず、相変わらずくすくすと男は笑う。
なぜくっつきたがるのだと問えば、寒いからだと答えるのだろう。
包み込むような温もりに、シリルはわずかに表情を歪ませる。
強く抱き込まれた。
「おい、苦しいぞ」
「そんな顔してるくせに……」
どんな顔をしているかなど、聞きたくなかったシリルは、続くジェイドの言葉を唇を塞ぐことで奪った。
それでも、彼が息だけで笑うのがわかる。
「別に気にしなくていいのに。僕たちのこと、ちゃんと味方だと思ってるってことでしょ?」
苦笑混じりのジェイドの言葉に返答は無い。
ふっと息を吐いてシリルは目を伏せた。
言われた通り、自然に背中を向けられるのは、意図的にではなく背中から抱き込まれるのを許すのは、同じタークスのメンバーを敵ではないと認識しているから。
敵と決めた相手に対してはどこまでも非情になるシリルだが、一度気を許せば大概のことを受け入れてくれる。
「……弱くなったな、俺は」
あんたたちが甘やかすからだ。吐かれた言葉は苦い。
「柔らかくなったの間違いじゃない? 少なくとも何でもひとりで解決しようとはしなくなった。良いことだと思うけど?」
「あんたがそれを言うのか」
「僕だから言うんだよ」
昔を思い出して笑ったジェイドに、ああ。と納得とも溜め息ともつかない声が触れた。
一人で出来ることと、二人で出来ることに違いなんかないと思っていたのはかつての彼も同じ。
「ね、お月見に行かない?」
「今の季節は寒いぞ」
話が最初に戻って、今度はシリルも遠回りな承諾を返す。
嬉しそうに笑ったジェイドは、もう一度、残りの一パーセントがどこか探してみようかと戯れた。

小話小話。 刀ニチョ編の99% Full Moonです。 すごい勢いで突発の思いつきなんですがこういうのかわいいなぁと思います。

2008/11/16 【BCFF7】