クローバー

背の低い草の中に不似合いな黒の色を見つけて、青年はその傍に寄った。
思った通り、黒は服の色で。
視線を移していけばシャツの白が覗き、さらにその上には日の光を集める蜂蜜色の髪。
自らの体を覆う草と同じ色を持つはずの瞳は、今は閉じられている。
それでも眠ってはいなかったらしい。
肌に影が落ちたのをきっかけに、薄く開いた。
青年の影ごしに射す光が眩しいのか、一瞬だけ大きく開いた瞳はすぐに細められる。
唇がゆっくりと青年の名を紡いだ。
「迎えに来てくださったんですか?」
声に応えることは無く、青年はその場に膝をつく。
そんな彼を気にするでもなく彼女はただ微笑んだ。
「今日はすごくあたたかいからですかね。草の匂いが、優しいんです」
「そうか」
あたりは一面、白と緑。
草の海に溺れそうな体を起こすことも無く彼女は笑う。
「気持ちいいですよ」
「……良かったな」
「はい」
短い言葉。でも決して不機嫌なわけではない。
十分それを分かっている彼女はこみ上げる笑いをかみ殺して、目を閉じた。
視界を塞げば、香りだけが強く。
それまでの緑の中にかすかに混じる彼の匂いに気付く。
青年の名を呼べば、何だ、と声が返った。
「すいません。なんでもないです」
ただ呼んでみただけだと言えば珍しく苦笑が返った。
「それで、お前はいつまで硝子細工のように横たわっているつもりだ?」
そんな大人しい性格ではない事を知ってる、からかいの言葉。
「硝子細工……ですか」
「ああ。この葉は輸送の時の緩衝材として使われていたらしいからな」
理由を告げてくる声に、そういうことかと頷いて。
彼女は硝子細工には真似の出来ない満面の笑みを浮かべた。

初夏~夏の拍手お礼でした。 新緑~梅雨はどうもニチョ短イメージのようです。 そして短銃ちゃんに白詰草、似合うなぁと。 草の絨毯でお昼寝してほしいです(妄想)

2007/07/20 【BCFF7】