強奪

「シリル」
なんだ、と問い返す余裕も無かった。
伸びてきた腕に強く拘束され、唇から言葉は奪われる。
「……ッ」
ぴちゃりと押しつぶされた水音。勢いで擦れた歯の表面が痺れる。
執拗に訪う舌に無造作にかき回されて煽られれば自然と息が上がった。
「あんたはいつも唐突だな」
「知っているものだと思ってたけど?」
ようやく離されたところで皮肉れば、返るのはこれまたふてぶてしい言葉。
「ああ」
ただのあてつけだ。
潜伏中の状態でされても迷惑なだけだと続ければ楽しそうな笑い声が控え目に響く。
「隠れ場所が同じだったってことで諦めてよ」
「そんな必要性は感じないな」
「じゃあ、もう一回していい?」
いうが早いが、ふわりと頭から布を被せられる。
布ごと引き寄せられて追い込まれ、足を投げ出して座った彼の上に乗る形になった。
そもそも、男二人が並んで座れば飽和しそうな狭さしかない部屋では、他にろくな選択肢もない。
どさくさに紛れて何をやってる、と。
押し殺した文句の声も吸われて、水音が跳ねる。
「ん……」
部屋の外に複数の人の気配。
気付いたが、口吸いを止めない相手に強い抵抗も出来ない。
人の気配も遠退いたあたりで力を抜けば、ふいにカチャリと音がして扉が開いた。
「ジェイド? こんなところで何をやってるわけ?」
聞こえてきたのはよく知る声。
呆れが全開のそれに向かってジェイドは口元に指を立てて応えた。
「まあ……予想はつくけどね」
「なら、支援を頼みたいんだけど」
いい加減にここから出たいんだと告げればさらに呆れたような声。
「お楽しみ中だったみたいだけど?」
「アイリ!」
布に阻まれただろうが、何をしていたかは予想がついたのだろう。
アイリから見て後ろを向いたままのシリルは一言も喋らない。
「ま、いいわ。このままだとシリルがかわいそうだしね」
「……気付いていたのか」
「当然でしょ? あなたも大変よね。いつもこの変態に捕まって」
平気で毒を吐くアイリにシリルは口の端を上げる。
「ちょっと酷くない?」
「全然」
抗議するジェイドを一刀両断して、シリルを連れ出す。
彼が頭から被ったままの白い布を剥いでジェイドへと投げつけた。
「シリルはあなたのものじゃないわよ」
まるで花嫁を強奪するように不敵に笑って。
するりとシリルの腕に自らのそれを絡ませる。
遠くから一度は遠ざかったはずの団体の気配。
「えっ……ちょっとアイリ?」
「会社で変なことしてたお仕置きよ。頑張って逃げてらっしゃいな」
ひらり。
軽く振られた手はまるで死刑宣告。
声を上げられないだけまだましだと悟って、ジェイドは全力でその場を後にした。

……もしかして私は自分で思っているより手裏ニチョが好きなんだろうか(悩) 最初はちゃんと刀ニチョで書いていたはずなのに、会社でこれ以上先に進ませるのに(私が)耐えられなくなったので強奪していただきました。 元はバレンタイン用に書いてた話。ホワイトデーにすら間に合わなかったぜ。 超時期外れ。でももったいないからのせる(笑)

2008/03/15 【BCFF7】