翡翠

少し前と違って降り注ぐ日差しはただ暖かく肌に触れる。
季節はすでに春を通り越そうとしており、目に付くのも花よりは緑。
下の街と違い、土が張られた公園は言ってみれば巨大な植木鉢だ。
空中都市ミッドガル。
ここには自然の地面など存在しない。
植えられた木々は管理の名の元に計算して枝を伸ばされ、それでも生きてると主張するようにに青々とした葉を茂らせている。
「聞いてもいいか?」
そんな公園のベンチの一角。
まるでここに自分が居るのは間違いでは無いかというように、青年は問いにしては弱い呟きを落とした。
「はい、何ですか?」
応えるのは弾んだ少女の声。
木漏れ日に目を向けていた彼女は僅かに首を傾げてシリルを振り返った。
「何故、俺なんだ」
「なぜ……って……」
くるりと体ごと向き直った彼女はにっこりと微笑んだ。
彼女が纏っているのは暖かな日差しに対しては無粋なタークスの制服で。
微笑だけが剥離している。
「シリルさんのここに、深刻な谷間を発見しちゃったからですよ」
ちょん、と自分の眉間に指を触れさせて、また笑う。
「それだけか?」
「はい。だって、勿体無いでしょう? こんなにいい天気ですし」
「天気は関係ないと思うが……」
ぼそり、とした文句にも彼女は軽く笑って大有りです、と言葉を紡いだ。
大きく葉を茂らせた樹の影は今は二人のところまで届いていない。
珍しいほどくっきりと空に浮かび上がった太陽の光に彼女の髪が揺れた。
日の光と同じ色の髪がさらさらと落ちかかって光とも影ともつかぬ紗となって目元を覆う。
彼女は僅かに眩しそうに目を細めた。
「今の季節って、眩しいじゃないですか。春ほど優しくなくて。でも夏ほど強くも無い」
だが日の光は命を引き立たせるように明るく。
それを受ける木々の緑もなお青く。
「シリルさんはそういうのを避けてるみたいですけど」
「分かっているなら……」
「ダメですよ。だから誘ったんですから」
「……ユリア」
文句を言うように名を紡ぐが、彼女の笑顔が崩れる事は無い。
「お昼寝とかしたら、気持ちいいでしょうね」
背を伸ばしてきた樹の陰に掌を差し入れてその先を見上げる。
眩しいのは。
「……ユリアの方だな」
視線の先の木々よりも光をたたえた翡翠の瞳。
細い髪の光に晒されてずいぶんと眩しそうだ。
「何か言いました?」
「いや。寝たら置いていくぞ」
気付かなかったのか、思わず零れた声を誤魔化すように落とした言葉にユリアは真面目に頷いた。
「この後にも仕事、控えてますしね」
「ああ」
いい気分転換になったと伸びをした彼女に、シリルも僅かに視線を含んだ棘を緩ませる。
「それじゃあ、行きましょうか。今回の仕事、よろしくお願いしますね」
この後の仕事は彼女と一緒の護衛任務。
同じ場所に行くとはいえ、護衛対象はそれぞれ違うのだからよろしくもなにもないのだが、シリルは軽く頷きを返した。
ベンチから立ち上がればスーツの下に吊った銃の重さが意識に上った。
太陽が眩しい公園の昼下がりには全く不似合いのそれが仕事を思い出せと語りかけくる。
僅かに下がっている彼女の左肩が同じものを内側に吊っていると教えてくれた。
それまで笑みを作っていた彼女の表情がすっと静かになる。
「そろそろ行きましょうか」
「ああ」
眩しさを全てその場に置き去るように表情を改めて。
二人は公園を後にした。

ニチョ短です。珍しく? ちゃんとニチョ短。というか甘……誰だコイツ(笑) ビルの谷間で一生懸命枝を伸ばしている木が初夏の日差しを浴びてると短銃ちゃんぽいなぁと。

2007/04/28 【BCFF7】