共敵

「ガクシャというのが付く人種は皆同じだな。好きになれん」
「それを言ったらシャチョウという言葉が付く人種も同じでしょう」
若さを隠そうとするかのような冷酷な声は、相手には通じなかったらしい。
神羅の副社長様?
皮肉るように、笑みを伴った声が返った。
先に口を開いた男の表情が曇る。
若い男だ。薄暗い部屋の中でもわずかな明かりだけで光り撒く髪は黄金。
若さ故の傲慢さを備えた表情には野心が溢れている。
身につけている全身が白の衣服と相俟ってそこだけが現実離れして見えた。
「だから好きになれんのだ」
「貴方の言葉はまるで子供の我が儘ですね」
「なんだと!?」
「おっと。あまりいきりたたないで下さい。単なる言葉のあやですよ」
声を荒げた相手にやんわりと釘を刺すようにもう一人の男が答える。
特に目立つ容姿でもない男だが、温和な口調とは裏腹に瞳は冷酷そのものの光を湛えていた。
「……フヒト君、君は自分の立場を分かっているのかね?」
まるでそれ自体に腹が立つと言わんばかりに苛立ちを隠さない口調。
フヒト、と呼び掛けられた男は気付かれぬよう闇に紛れて薄く笑った。
「もちろんですよ」
最初から戯れの会話だと思っておりましたが。
そんな風に言われれば黙るより他は無い。
真意など無い会話には慣れている筈だが、なんとなく突っ掛かってしまうのは脳裏にちらつく誰かに似ているからか。
容姿が似ているわけでは無い。
言葉使いも抑揚も、なにもかも似ていない。
それでもどこか似ていると思う。
それは彼等が対象こそ違え、共通の研究者といった人種だからかもしれなかった。
自分以外……いや時に自分自身さえ研究の対象となりえるかでしか見ていない。
「それで、私が誰に似ていると?」
「君なら答えずとも分かるだろう」
「……なるほど。それは光栄ですね」
今度は隠さずににっこりと笑って、男は心当たりを思い浮かべる。
「ただのイカレた科学者だ」
「私にとっては尊敬する方ですよ」
楽しそうに返されるフヒトの言葉は、半ば予想出来たものだった。
「あんなのがいいとは。君も長く無いな」
皮肉の言葉は、その役割を果たさない。それも予想できていたこと。
落胆するにも及ばない。
「自らの命の長さなどに何の意味があるのです? 死ねば星に還るだけですよ」
「本気で言っているのか?」
「もちろん」
これでも星命学者のはしくれなんですがね。
付け足したような言葉にも説得力など無かった。
大袈裟に光を振り撒いて白の青年が笑う。
「心外ですね。真面目に答えたつもりですが?」
「何を言う。君のそれは周りに対する言い訳だろう」
素直に言ったらどうかね。ただやりたいだけだと。
笑いを含んだままの声に、一瞬だけ鋭さが混じる。
「それがあの方の教えというわけですか」
「誰が。だいたい、あの男ほど教師に向かないものはない。これは単なる私の観察の結果だ」
本気で嫌そうな青年が顔をしかめる。
「ではそういうことにしておきましょうか。ですがルーファウス様……」
一度体に染み付いたものはおいそれとは消せませんよ?
笑ったままのフヒトがふっとルーファウスの瞼に指を触れさせる。
「何のつもりだ」
「貴方はずっとあの人を見て来たのでしょう? それは一番原始的な教育だと思いますが」
「やめろ」
「……そうですね。別に貴方の機嫌を損ねたいわけではありませんし。もうやめましょう」
触れさせた指を引いてフヒトが呟く。
見るとは無しにそれを見遣ってルーファウスは口を開いた。
「君はもっと賢い男だと思っていたのだがな」
「同感です。どうやら憧れの人の話に柄に無く浮かれてしまったようです」
「詭弁を」
「本当ですよ」
叶うなら今一度お会いしてゆっくりと語り合いたいところです。
「そうして世界の敵が増えるわけか」
「さて、それはどちらのことでしょうね?」
言葉の指す先を意地悪く問うて、フヒトが唇を歪める。
「さあな」
あしらうような言葉を吐いたルーファウスの唇も笑っている。
共犯者だとでも言うようにその場の二人は視線を合わせた。

宝ル前提のフヒル(笑) というかフヒトとルーファウスが宝条の事を話ているだけですけどね。 さり気無く馬鹿にされているBCルーファウスが愛しくてなりません(歪んだ愛情)

2007/06/27 【BCFF7】