温度

吹きさらしの待機場所は露出した肌の温度を奪うには十分で。
隙間から侵入してくる風は更に冷たく乾いて身を凍らせる。
そんな中、まるで周りを気にする様子など無くシリルは立ち尽くしていた。
手だけは纏ったコートの中に納められている。
コートの前も、スーツの前も開けられた姿からは矛盾を感じそうだが、どちらもまだ戦闘モードから脱していないことを表している。
彼の武器はただでさえ低い温度で指先の温度を奪っていくシロモノだった。
不意に背後で上がった物音に素早く反応して、スーツの下に吊ってあったホルスターから銃を抜く。
「おっと、あぶねぇ」
「……カイル」
「だよ。とりあえずコレ仕舞ってくれねぇか?」
狂い無く眉間に突きつけられた先を示してカイルが苦笑する。
「紛らわしい近付き方をするからだ」
かちり、と銃を鳴らして一瞬で元の場所に戻したシリルは深く息を吐いた。
「あんたのはシャレになんねーんだよ」
まったく、馬鹿正直にこんなとこで待ちやがって。
「そういう予定だっただろう」
「だからって……いつから居たんだよ?」
「さあな」
あたりに誰も居ないことをいい事にすっかり冷え切っているシリルの体を引き寄せる。
「何の為に携帯あると思ってんだよ。どうせ俺と合流するだけなんだから連絡よこして移動すりゃよかっただろ?」
「……そうか。それは考え付かなかったな」
あくまで淡々と言葉を紡ぐシリルに、今度はカイルが魂息を落とした。
引き寄せたシリルの背に腕を回し、しっかりと体を密着させる。
「少しはあったけぇだろ?」
伝わってくるのは高い温度。
子供のような体温だな、と思う。
だが思っただけで声になることはなく。
何よりも、想像よりは不快でないことを自覚する。
同じ外に居たはずなのに、この体温の違いはどういうことだろう。
「お前は……いつも熱いな」
「どういう意味だよ」
「言葉どおりだ」
僅かに身を任せるように力を抜いて。
触れてくる温もりを受け入れる。
「あーあ。まったく」
外気に触れていた頬がカイルの手に包まれ、冷気から遮断される。
続いて、軽く唇が触れた。
「いつまでもこんなとこ居られねぇだろ。そろそろ行こうぜ?」
「……言われなくても」
温もりなどさして必要ではなかったとばかりに腕を解かれて、カイルが口元を歪める。
逆らうように肩に手を回した。
「何のつもりだ」
「別に」
なあ。
声を掛けて。
投げ出されるように脇で揺れるシリルの掌を取って、指先を絡める。
そのまま己のジャケットのポケットに引き込んでにやりと笑った。

たまにはロッドにいい思いをさせてあげよう(笑) なんか珍しく甘め……そもそもこれで甘いって言ってもいいのか? という疑問は残りつつ……

2007/01/25 【BCFF7】