あめふり

規則正しい自然の音なんてない、とは誰が言ったものか。
広く茂った青い葉を小さく叩く雨音は他の時期とは違う響きを持っている。
「降られてしまいましたね」
苦笑とともに話しかけてきたユリアの新緑の瞳に、シリルもつられるように口端を緩めた。
「わかっていたことだがな」
「はい」
目的地まではもうさほど距離はない。それでも曲がりくねった山道はいつ谷底に直行するか分からない。
雨よりはガスのために進むのを断念した二人だった。
車は申し訳程度に道の端に寄せられているが、他に通行があった場合は諦めるしかない。
もっとも、この深い霧の中を移動してこれるものが居たらの話だが。
「それでも、ここまで霧がすごいとは思っていませんでしたよ。真っ白ですね」
瞳を輝かせて笑う彼女の髪はしっとりと濡れている。
車を寄せるときに様子見がてらと外に出た結果だ。シリルが止める暇も無かった。
「寒くないか?」
「大丈夫ですよ。そんなにヤワじゃありませんから」
「そうか」
フロントガラスに落ちる水滴は拭われることなく、滑らかなすべり台のように水滴を遊ばせている。
つ、と細い指が内側からそれをなぞった。
「雨越しの風景って面白いですね」
シリルは無言だったが、気にすることなく彼女は先を続けた。
「全部が柔らかくて、優しい気がします」
プレートの下では見れなかった光景。
昼間でも暗い雨雲越しの空だというのに、やわらかな色彩が見え隠れする。
「知らなかった」
自然に囲まれた山道という状況も手伝っているのだろうが。
「……そうだな」
ぽつり、小さな相槌を打って。
やっぱり小さくくしゃみした彼女に、シリルは自分の上着を投げた。
ユリアもそれで意図を察せないほど抜けてはいない。
「すいません……ありがとうございます」
自らの上着を脱いで座席に掛け、シリルの上着に袖を通した彼女は、煙草の匂いがすると笑う。
「雨は好きだけど、嫌いです」
狙いが見えなくなるから、と彼女は言う。
若草のような瞳が時に無表情で敵を撃つのを、シリルも知っている。
「そうだな」
動けない時間は長く。それでも深く踏み込んでこない会話は決して不快ではない。
雨はまだやむ気配がなく。
視界を覆う白のヴェールはさらに濃く。
水音に包まれて、二人を足止めした山は未だ眠りの中に沈んでいた。

梅雨時期になるとなぜか書きたくなる短銃ちゃん。 可愛いよね、短銃ちゃん。 この子が絡むのだと、恋愛未満の日常話が好きみたいです。

2008/06/17 【BCFF7】