連鎖

音が聞こえた。
規則的に窓を叩くそれが雨の音だと認識できたのは聞いてだいぶ経ってからで。
男はベッドに横になったままうっすらと目を開いた。
部屋にはまだ深い闇が落ちていて、夜の気配を漂わせている。
細く、長く。
息を零す。
時計を確認すれば予想通り。夜明けまではまだかなりの時間があった。
「目がさめちゃったな」
言葉とは反対に目を閉じて、窓に訪なう楽隊をたのしむ。うっすらと笑みを刻んだ唇が低く、微かに音を紡いだ。
こんな雨の夜明け前。
君は眠っているだろうか。それとも……
まるで思春期の少年のような思考に苦笑を落とした。

+++

誰かに呼ばれた気がした。
次の瞬間それは幻聴であると分かっていて、それでも青年は振り返る。
冷えた空気にうっすらと白い息が尾を引いた。
予想通り、辺りには誰もおらず。遠く、白い化粧を施された山脈が見える。
その白と空の青の差が眩しくて彼は目を細めた。
ぐるりと見渡せば空には雲ひとつなく。太陽を中心に少しずつ色を変えて天を覆っている。
呼ばれた気がしたのは、この色彩のせいかもしれない。
「空……か」
何度も見た筈なのに初めて見るような気がするのは、自分の上にあるのは暗い地面だと認識していた時間が長いせいか。
己の変化の無さに、ほんの少し口端を上げる。
似合わぬついでに空に向かって手を伸ばして。
遠く輝く白い太陽を掌に閉じ込めた。

+++

手を伸ばした先にあった筈の花は急な風に掠われて指先から逃げていく。
細い花弁がいくつも重なった花は燃える焔の色をしていた。
花の代わりに掴んだのは、水平線に沈んでいこうとしている夕日。
眼前に広がる海も、おそらく自分も。濃さは違うが同じように赤いのだろう。
勢いのままその場に仰向けになって、上向きに沈む太陽を見る。
融けていく飴のように細く引き伸ばされて消されていく。
赤は自分の中に染み付いた、懐かしい景色。
「あー……たまにはジュノン寄るかな」
くるりと腹這いに体勢を変えて。もう一度太陽に向かって手を伸ばすと、最後の光を両手で受けて。甘露を乾すような仕草。
それほど優しいものではないこともわかっているけれど。
腹の下になった地面の程よく暖められた温度が心地良いから。
まあいいか、と一人笑って最後の光を眺めた。

拍手お礼でした……随分と長いこと。 一方通行のページ送りならと実験的に三分割で繋がっているような繋がってないような感じに。 刀(夜)→ニチョ(昼)→ロッド(夕)という一方通行具合。 この三人は一方通行なのが似合ってる気がします。 一緒に居るとギャグなのに離すとシリアスになるんだなぁと、失礼なことを思った記憶が(笑)

2008/07/22 【BCFF7】