珈琲時間

「休憩にしないか?」
 提案したのは尻尾を揺らし、眉を上げた金髪の少年。
 休息の時は貴重になりつつあり、それを分からぬ面々でもなかった。
 同行しているのは二人。
 一人は額に傷を持つ寡黙な少年。
 もう一人は稚気を忘れず、風のようにつかみ所の無い青年。
 一瞬顔を見合わせた彼らは金髪の少年の提案を受け入れてその場で休息することを承諾した。
 場所はちょうど世界と世界を繋ぐ路の手前。
 コスモスが消えてばらばらになった世界は、それまでのひとつながりの地からばらばらに分たれて、理解も出来ない路で辛うじて繋がったものとなった。
 次の世界がどいうところか分からない以上、休息にはいいタイミングだっただろう。
 満場一致で可決されたところで、それぞれ行動に移る。
 何も言わずとも、三人の間では役割が決まっていた。
 あっという間に火が熾され、沸かした湯で茶が淹れられる。
 ……そのはずなのだが、その日は違った。
「ほら、スコールの分」
 担当分の仕事を終えて火の傍に腰を下ろした少年に渡されたのは、ある意味では嗅ぎ慣れた香りだった。
 ひょこりと揺れた尻尾が楽しそうに目の前を通過して、少年にカップを示す。
「これは……」
「コーヒー豆。手に入ったから淹れてみたんだ。これが好きなヤツいたっけなーって、さ」
「そうか……」
「どうした、スコール? もしかしてコーヒー苦手?」
「そういうわけじゃない。ただ……」
 言いかけて、そこでスコールは一度言葉を切った。眉間に寄った皺で言わんとしたことを察して、ジタンとバッツは顔を見合わせる。
 くすり。
 仕方がないなあと、苦笑が零れた。
 ふらりと立ち上がったバッツが荷物をあさって、俯いたままのスコールの傍に立つ。
 ころ。ころころ、ぽちゃん。
「何を……?」
「ん。これ、さっき見付けたんだ。一応これも砂糖だろ?」
 バッツの掌から零れて、スコールのカップに入り込んだのは、少し歪んではいるが、星を模した砂糖菓子。
 ひとつ、ふたつ。みっつ。
 それは熱い液体の中ですぐに形を失い、最後に小さな泡を残して消えた。
「これなら飲めるか?」
 からからと掻き混ぜて。ふわりと漂うのはコーヒーの香りと湯気。
「……余計なことを」
「はいはい、じゃあ直接食べる?」
 誰が、と。
 スコールがその言葉を発することは叶わず、歯にぶつかった砂糖菓子がこつりと笑う。
「あはは。バッツ、オレにもちょうだい」
「もちろん!」
 からり、から、から。
 三人揃って黒い液体に砂糖菓子を放り込んで。
 これで一緒だと笑う。
「たまにはコーヒーもいいだろ?」
 ジタンが笑って。バッツがが頷く。
 スコールは相変わらずの無表情。だが、眉間にの皺がゆるくなっていることに気付いている二人は何も言わない。
「お話をしようか」
 切り出したのはバッツ。
 なんの話をするんだと問うのはジタン。
 そうだな、と。勿体をつけるように考え込む仕草。
「じゃあこれの話をひとつ」
 ぽんと手を打って。バッツが取り出したのは件の砂糖菓子。
「星も見えない雨の日に、ひとりぼっちで泣いていた子供に妖精から届いた贈り物のおはなしだ」
 にっこりと笑ったバッツが語り出す。
 知らない世界の知らないお伽噺。
 ジタンもスコールもいつしか引き込まれて、コーヒーを片手に火を囲んだ夜は更けていった。

スパークで無配折本として出し損ねた589。 と思ったら差し入れに金平糖頂いてしまい出せばよかったと全力で後悔しました……せっかくなのでサイトにアップ(苦笑)

2010/10/14 【DFF】