同じ光

あたりをとりまく光が、なんとなく。
自分が知っているものと同じだと直感が告げてくる。
そこら中に浮かんだ岩の地面を渡って、一番下に見えていた広い場所に降り立ったジェクトは、不機嫌そうな声に顔を上げた。
「何の用だ」
「なんだ、先客か」
降りてくるときは影になっていてわからなかったが、地面の端に近い場所に長い銀の髪の後ろ姿が見える。
「よーう。セフィロス」
片手を上げたジェクトに、セフィロスは冷ややかな視線を投げただけ。
伏せるようにして逸らされた視線を追って、ジェクトはセフィロスの横から表情を覗き込んだ。
「つめてえなあおい。ここは別におまえさんだけの場所じゃねえだろ?」
自分に馴染む場所があることはジェクトも理解している。
自分にとっては廃墟のスタジアムが漂う空間がそうだ。
不確かなこの世界は。いくつもの世界のいくつもの断片を継ぎ接ぎするようにして成り立っている。
同じ風景の空間が複数あったり、逆に不自然なほどあってもよさそうな風景が無かったりする世界。それをおもしろいという一言だけで流してしまうものもいれば、統一と秩序を求めるもの、全てを受け入れようとせず無に帰すことを望む者もいる。
だからこそだろうか。
馴染むということは特別で。
思い入れが強くなるほど、その場を訪れた他人に対して荒されたような錯覚を生む。
指摘されて意識したのか、セフィロスはわずかに瞳を上げた。
二人の視線が交錯する。
何の用だ、と。
あらためて投げられた問いからは、あきらかに殺気が削がれ、興味すらのぞいている。
「別にこれといった目的があるわけじゃねぇよ。ふらふらしてたら出ちまったんだ」
「あまり身を乗り出すと落ちるぞ」
「んなヘマするかよ」
返事をしながらも、ジェクトは意外だと言うように片眉をはねあげた。
背中を向けていたにも関わらず、気配で気付いたのか、セフィロスの纏う空気が不穏な色を帯びる。
「そうカッカすんなって。アンタ、意外とカワイイとこあんだな」
火に油を差すようなジェクトの言動には、楽しげな笑いが付随していた。
当然、セフィロスの機嫌は最低のところまで急下降する。
「今すぐその口を閉じろ」
「閉じたからって、アンタの機嫌は上昇しねぇだろ?」
「……よほど殺されたいらしいな」
地を這うように低いセフィロスの声。それすらも笑い飛ばして、ジェクトはやるつもりなら歓迎すると告げた。
重い溜め息とともにセフィロスの気配が和らぐ。
「こちらにまで馬鹿がうつりそうだ」
「あんだとコラ」
聞き捨てならないと。それでも楽しそうに笑って振り返ったジェクトの目に映ったのは、笑みを噛み殺す英雄の姿。
「なんだ。そんなカオもできんじゃねーか」
「知らんな」
指摘したとたん無表情に戻ってしまうセフィロスに勿体ねぇと洩らして。ジェクトは近付きすぎた縁から離れた。
中心付近に大の字になって上を見上げる。
おい。とセフィロスが咎めるように呟いた声は聞こえないフリをした。
見上げた先にはどこまでも続くかのような乳白と、翡翠と萌葱。時折混ざる琥珀や火焔。
色とりどりの貴石の欠片は、幻光虫よりも確かに強い色彩を浮かび上がらせる。
「なんか、妙に落ち着くんだよなあ」
この場所は自分と紐付いた場所ではない。分かっている筈なのに。
「面白いことを言う」
極めて珍しいことに。セフィロスが近付いてきてジェクトを見下ろしていた。
「ああ……アンタの目も同じ色だな」
ジェクトが笑う。この場所に愛されているのだなと。どこか痛みを堪えるような笑い方だった。
「……本当に面白いことを言う」
ジェクトが口にしたことは皮肉でしかないと、セフィロス自身が一番分かっている。ただ、指摘する気にはならなかった。
単なる気紛れか。あるいは、つい先ほどジェクトが見せた表情のせいかもしれない。
セフィロスは、今目の前に横たわる男に縁の深い土地を思い起こした。
砕かれた観客席と巨大な剣をもって断罪され、名残の光が舞うスタジアム。熱気に包まれた夜の気配の残骸。吹き上がる炎。
彼が気にしているのはその光の色なのだろう。
貴様の纏う色も同じだと告げた英雄に、夢想の男は笑った。
どちらも同じ、世界に満ちた光の色彩。
ほんのわずか。英雄の口端が緩んで、どこか棘を孕んだ空気は霧散する。
それからしばらく、二人は無言のままで強さの変わる光を眺めていた。

親父とセフィロス。意外と仲がいいんじゃないだろうかこの二人も……という妄想。 セフィロスがどんだけつっかかっても軽く流してくれそうな親父が素敵だと思います。なんだろう……方法は違えどアンジールあたりと同じ匂いがする感じ?

2009/06/15 【DFF】