父親の温度

「ジェクト。もう一回! 今のもう一回やって!」
「あぁん?」
ぼりぼりと頭をかいたジェクトの腕に飛びかからんばかりに伸びをして。満面の笑顔を浮かべたバッツが言い募る。
唐突なその行動に、ジェクトは渋い顔で首を捻った。
「もうそんなトシでもねぇだろうが」
「……おれって幾つに見える?」
ぼやきのような呟きに返された問いこそ唐突だったかもしれない。
ジェクトの表情が崩れて、少しだけ楽しそうな色が覗く。
「そうだなあ……まず二十歳は越えてんだろ?」
ジェクトが返した答えは、意外だったらしい。もっとも、この場に他の秩序の戦士達がいれば、青年に輪をかけて驚いた顔が見られたかもしれない。
「なんか……新鮮だな」
「どういうこった?」
純粋に感動した様子のバッツは、ほけっと口を開けたままジェクトの言葉を反芻する。
状況が分からないジェクトは、感慨に浸っている青年を待つことをせず、さっさと確かめるための行動に出た。
「おれさー。一見だと歳よりガキって思われることはあってもその逆って無いんだよ」
「そりゃ、普段の行いってやつじゃねーのか?」
とっさにひどいと漏らしたものの、自覚はあるのかそれ以上の文句を言うことはない。
ただし、表情を一変させて微笑むバッツは、普段では考えられないほど酷く儚く映った。
唐突な変化に、ジェクトのほうが戸惑った顔を見せる。
「さっきのはちょっと……懐かしかったから」
これはおれの中の親父の記憶なのかなと笑う。
「ハッ! それこそゴメンだな」
ガキは一人で足りていると笑ったジェクトに、つられてバッツも声を上げた。
まだすこしだけ、切ない目をしている彼に、ジェクトはひそと息を吐いて、いつも持ち歩いている剣を持ち上げる。
「じゃあな」
去り際にくしゃりと頭を撫でられれば、不器用な優しさが垣間見えて。
「ほんと、素直じゃないよなあ」
残されたバッツは苦笑して、どこか温もりの残る髪に己のてのひらを触れさせた。

拍手お礼でしたジェクト&バッツ そういえばFFは父親に恵まれない子もだけど、同じくらい逆パターンの親も多いよね、っていう。

2009/07/26 【DFF】