Totentanz 2

バッツの剣は幅広の大剣に止められ、高い音を響かせる。
ジタンと同じような。いや、それよりも少しだけ月の色が映り込んだような金の髪。
空とも海とも違う、人口の宝石のような蒼の瞳が険しく細められた。
「何をやっているんだ」
バッツ。
刃を噛み合わせたまま呼びかけられた名に青年は満面の笑みを見せた。
「クラウドも、おれと遊ぶ?」
「何を……くっ」
すうっと細められたバッツの瞳。笑みに歪んだ唇がそっと意味のある言葉を紡ぐ。
剣を交わらせたまま至近距離で放たれた光弾はしたたかにクラウドの体を打ち据え、吹き飛ばした。
だが、クラウドも負けてはおらず、すぐに体勢を立て直して着地する。
直後に発生した水柱をかわし、再び接近。
「あははっ」
中空を掻いたバッツの腕の先に光弾。
きいん。
たたたたん。
たん、たたん。
合わせるようにどこからか飛び出したイミテーションが二体、光を追うようにしてクラウドに襲いかかる。
「邪魔だ」
一言の元で切り捨てると、空中という不安定な体勢にもかかわらず、身を捻った彼は横薙ぎに大剣を振って一体、返す刃でもう一体を屠る。
間髪入れずに闘気を纏わせると、一気に二体を越えてバッツに突進した。
「っと!」
応戦するように盾を手にしたバッツがそれを受け止める。影から出現するのはもう片方の手に握られた光の戦士の剣。
クラウドの腕が切られ、緋色が宙に飛ぶ。
勢いが付いたままで交差して、バッツはクラウドが半分破壊したイミテーションに突っ込んだ。
鬱陶しいとばかりに切り捨てる様子を見て、地上から見ていたスコールとジタンが眉を寄せる。
バッツの表情があまりにも笑みで固定されているのが違和感なのだと、以前から彼を見て来た二人はすぐに気付く。
身を翻したクラウドは、まだバッツの体勢が整わないうちに次を仕掛けた。
高く、高く。
剣が啼く。
一緒にぶつかった銀を愛おしそうに見て、バッツはさらに力を込めた。
クラウドの瞳が驚愕に見開かれる。
「させるか!」
「あ、こら。邪魔するなよな!」
せっかく楽しいところだったのに。
割って入ったのは氷の礫。
空気を割って飛んだそれは熱に溶かされて長く啼き、そのまま虚空へと消える。
放ったのはスコール。
水平に構えられたガンブレードの先が小刻みに揺れていた。
「バカ! 無茶すんなよ、スコール!」
ティーダほどでは無いとは言え、彼も間違いなく重傷なのだ。
一瞬だけ。
動きを止めたバッツとスコールの視線が強く絡み合う。
「まだ戯れるつもりか」
低い、低い笑い声。
唐突に空中に出現したのは、碧の鎧を纏った影だった。
「……エクスデス」
押し出された声は誰のものだったか。
周りの状況を気にすることもなく、現れた影はバッツに向かって手を伸ばす。
「私の元へ来い。貴様はもはや逃れられん」
「どういう意味だ! おまえ、バッツに何をしたんだ!!」
真っ先に声を荒げたのはジタン。
だが、エクスデスも、バッツもそれに応えること無く見つめ合って。
ゆらりと。バッツが動いた。
それが合図だったかのように、まだセシルを追い回していたイミテーションがぴたりと動きを止める。
「何……?」
戸惑ったようなセシルの声。
エクスデスの手にバッツが触れる。
いや、触れる瞬間。バッツの手には剣が握られていた。
甲高い音が響いて、バッツのそれと、エクスデスの剣とが絡み合う。
「悪いけど、おれは行けない」
打ち合う剣の響きに、バッツの手元でぶつかる銀の悲鳴が混じる。
一瞬だけ目を伏せて。
バッツは強くエクスデスの刃を押した。
打ち合った衝撃で風が発生し、二人を包み込む。
まるで不都合を覆い隠すかのように勢いを増す風に紛れて、二人は空間を移動した。エクスデスの転移にバッツが乗った形になったそれは、大した距離を移動する訳ではないが、目くらましには十分だっただろう。
イミテーションもまだ残っている中で、追って来れるとは思わない。
「悪いな」
エクスデスと相対したまま、剣を引いて笑ったバッツは、クラウドに剣を向けていた時と同じ表情をしていて。
そんな彼を以前から知っているエクスデスは低く笑いを響かせる。
理由を問わずとも、バッツは自ら口を開いた。
「時々、さ。理由も無く全部壊して、一人に戻りたい時があるんだ」
一人で旅をして生きて行く為に未練はいつも捨ててきた。
それが時折強い衝動となって顔を覗かせる。
普段なら表に出すことなどなく。自らを誤摩化してそれでおしまい。
だが今回は、タイミングが悪く小さな鐘の音を聞いた。
エクスデスが誘う、罠の音。
「そうして全て私のせいにして素知らぬ顔で戻るのか」
「わかってたんだろ?」
おれはずるいから。
傷みを堪えるようにバッツは笑う。
本当に手放すことなど出来ないくせに、ギリギリの所で剣を立てて拒絶して。
それ以上近付くな、と。
笑った顔だけを憶えていてくれと。
自分勝手な願いを押し付けて。剣を振りかざす。
「ふん。まあいい。どうせ奴らとは相容れるものではない」
低く呟いたエクスデスにありがとうと笑って。
バッツは伸ばされた腕を拒むこと無くその場に立つ。
一筋。
その頬に朱がはしった。
続けて、体のあちこちが切り裂かれる気配がする。
「行くが良い。いずれ、また……」
「ああ」
元の場所との距離はさほど無い。
今度こそエクスデスが闇に溶けて消えると、バッツは詰めていた息を吐き出した。
剣は消えたが、手の中にはまだ銀があった。
「ごめんな」
鈍いようで鋭い彼はきっと気付いた。だからこそ、面と向かっては言えない謝罪をそれに落とす。
深くその場に息を落とすと、次の瞬間の顔はもういつもの少し頼りない笑顔で。
全身に散っているであろう傷も構わずにバッツは元の場所に向かって駆け出した。

イメージ音楽:サン=サーンス 交響詩「死の舞踏」 / フランツ・リスト「死の舞踏」 最初はサン=サーンスのほうだけをイメージしてたんですが、途中で混ざった(苦笑) このサイトではじめてのアナバツ。それっぽい表現をまったく入れてないけどアナバツ様です。うちのアナザー設定その二はノーマル=アナザーなのです。 ところでこれ、女性向けなのかな? だとしたら相手は獅子か盗賊か兵士か夢想かはたまた大樹かどれだろう(大笑)

2010/01/08 【DFF】