逃げる男の捕まえ方

「セブン! そいつを捕まえてくれ!!」
 平和だと思っていた噴水広場へと続く道の途中。唐突に掛けられた声がよく知ったものであることを認識した少女は己の武器を現出させた。
 院内で敵は考えにくい。だからこそとっさに昔練習のために使っていた刃のない武器を選んで、通り過ぎようとしていた男に向けてふるう。
「うわっ……!」
 不規則な動きで弧を描いた先は見事に男の足首を捉えることに成功。
 突然引っ張られた男は転倒を回避しようと身を捻る。逆回転で抜けるのを狙う余裕まである相手の行動を見た瞬間、セブンは本能のままに己の武器に電撃を流した。
「ぐあッ!!」
 びくり。男の動きが止まり、そのまま地面に落ちる。
 さすがに加減はしたが、突然の電撃にやられた男は受け身も取れなかっただろう。たいした高さではなかったから、おそらくは大丈夫だろう。
「す、すまない! つい……」
 あわてて武器を収めると、セブンは自分が引き倒した男の傍に駆け寄った。
「……ナギ?」
「助かった、セブン。ちょっとそいつ見張っておいてくれ。また逃げるようならもう一発くらい電撃くらわせていいから!」
「おいっ、エース!」
 セブンに声をかけてきた相手は、ナギの足が止まったのを確認すると、そのまま駆け出した。止める間もなく彼が去っていった方向を眺めて、溜め息をひとつ。
 仕方なく、派手に顔面から地面に激突した男をひっくり返して様子を見る。擦り傷の範囲は大きいが、大した傷でもない。
 逃がすなとエースに言われたのを思い返して、少女は男の腹の上を跨いだ。しっかりと挟み込んで動けないだろうことを確認してから回復魔法をかける。
「うッ……」
「気がついたか。よかった」
「……セブン?」
 ショックで一時的に落ちていただけの男はすぐに気付いて、己の置かれている状況を確認する。電撃を食らって転ばされ、あちこち汚れた状況のまま女性に乗られている光景は傍から見て相当おかしい。しかも屋外。
 冷や汗が流れたのはおそらく気のせいでは無いだろう。
「えーと。どうしてこんな状況になっているのか聞いてもいいか?」
「エースがあんたを逃がすなと言ったかからな」
 かといって不意打ちで電撃を食らわせたのは自分の責任だから治療くらいは、と。言葉を続ける彼女の表情は変わらない。
 セブンにとってこの行動は、0組のメンバーに対してのものと同じ、手のかかる兄弟を引き止めておくような感覚なのだろう。
 信頼されているのが分かるだけに指摘もしにくい。いや、そもそも指摘して気付いてくれるかどうか。
 すでに治療されたことでナギに痛みは無かった。その顔についた土を指先で払いながらセブンは首を傾げる。
「疲れているならちゃんと休め……ああ、エースのあれはもしかしてそれか?」
 ぎくり。不意打ちだったために指摘を誤魔化せず、動揺が漏れる。
 ケアルをかけないほうが良かったかと悩むセブンに、ナギは交渉を試みた。
「なんか悩む方向性が違う気がするんだけど……とりあえず降りてくれないか。逃げないから」
「ダメだ」
 問答無用で却下されて、ナギは寝転がったままがくりと肩を落とす。器用だなと追撃が入ってさらに落とされた彼はもはや戦闘離脱状態に近い。
「いやいやいやいや、セブンさんよく考えて! この体勢変だから!」
「そうか?」
 ナギの訴えも虚しく、セブンはわずかに首を傾げただけで疑問を返した。ナインあたりが逃げ出した時はよくこうやって捕まえていたと続ける。
 どこか天然なところもある少女にとって、今の状況は家族を相手にしていることとなんら変わらないのだろう。
 信用されていることは喜んでいいのかと思うが、それでも状況を打開したいという思いが先に立つ。
 結局。
 ことごとく交渉をはねつけられたナギは、助っ人のキングとナインを伴って戻ってきたエースに降参して、ベッドまで強制連行されていった。

どちらかというとナギ&セブンですね。セブンは天然でうっかりでお人好しなところがすごく可愛いです。でも頼まれたら全力。ナギはちょっとセブン苦手そうだなーと思います(隠し事をしにくい的な意味で)

2012/07/07 【FF零式】