お姫様抱っこ

 危ない、と。
 声を上げた瞬間に体が浮いて、シンクはほへ〜と間抜けな声を上げた。
 完全に落ちる、と思ったところでかろうじて彼女の腕を捕むことに成功した男は、反動で引っ張られて、縁ギリギリに倒れこんで踏みとどまる。
 突き出した欠片に腿かどこかが抉られた感触がしたが、構っている余裕など無い。
 彼女の手から離れたメイスが、代わりとばかりに岩にぶつかって落ち、鈍い悲鳴が尾を引いて見えなくなっていった。
 ぶらん、動揺を反映して足先が揺れる。
「ありゃりゃ、落ちたらぐちょんぐちょんだねぇ」
「それはいいから早くこっちに捕まってくれ」
 上から声をかけられてはじめて、シンクは己を助けた相手が慣れた0組のメンバーではなく、ナギだということに気付いた。
 伸ばした男のもう一方の手に捕まって、手が届く範囲まで引き上げられると、残りは自ら這い上がる。
 見た目に反して重量級の武器を振り回すシンクは、腕だけで己の体を持ち上げることなど簡単らしい。
 よいしょ、と声を上げながらも、最後はナギの力をほとんど借りずに崖の上まで戻った。
「は〜、びっくりしたねぇ」
「それはこっちのセリフだよ。とりあえず無事でよかった」
 のほほんとした口調のまま、落ちていったメイスを魔法の力で手元に戻すシンクを見て、ナギは息を吐く。
 ここで彼女を失うわけには行かない。それは諜報部としての判断だったが、別の側面で心底安堵している。
 己の武器が無事なことを確認した彼女が武器をしまったのを確認して、男は立ち上がった。
 大丈夫そうなら皆と合流すると声をかければ、どこか間延びした口調で了解と返答がある。
「助けてくれてありがとねぇ。ナギナギは、細いのに力持ちさんだねぇ」
 一瞬自分のことを呼ばれたことに気付かず、ナギはきょとんと目の前の少女を見た。
 汚れたスカートを払い、にこにこと笑うシンクは気軽く近付いて、体ごと首を傾ける。
「でもぉ、シンクちゃんのほうが力持ちだよぉ〜」
 悪戯を思いついたような顔に嫌な予感を覚えた直後。ひょい、と軽く持ち上げられてナギは焦った。いわゆるお姫様だっこの形に男を抱き上げたシンクはそのまま歩き出す。
「あはは〜、ナギナギ軽い〜」
「ちょっ……!?」
 下ろしてくれという要請は怪我人だからダメだと却下され、サポートはよろしくと返される。
 何回か押し問答するものの、まったく耳を貸さないシンクは、結局ナギを抱えたまま、途中ではぐれたキングとデュースの元まで移動した。
「あっ、シンクさん!」
「無事だったか……ナギ?」
 キングが途中で言葉を飲んだのは正しい判断だっただろう。
 その頃には観念して大人しくシンクの腕の中に収まったナギは、遠い目でどこかを見ていた。
「デュース、ナギナギ怪我してるから治してあげて〜。わたし空っぽ〜」
「あっ、はい!」
「……その前にそいつを下ろしてやれ」
 溜め息と共に紡がれた言葉に不満そうに唇を尖らせたシンクだが、結局0組の長男的存在であるキングには逆らえず、手近な段差に男を下ろす。
 入れ替わりに屈み込んだデュースのケアルを受けながら、ナギは乾いた笑いを洩らした。
「はい、おしまいです。あっ、シンクさんも逃げないで下さい!」
 治療を終えたデュースがシンクの方にも怪我があることに気付いて、無理矢理座らせている間に、身を屈めたキングが声をかけてくる。
「……気にするな。0組は皆やられてる」
「皆?」
「ああ、俺もだ」
 同じようにどこか遠い目をしながら告げたキングに、皆同じと知って少しだけ立ち直ったナギは、目の前の男の肩をそっと叩いて同士の情を受け取った。
 

シンナギというかナギシンというか……おそらく彼女にそんな感情は全くないのでシンク&ナギですかね。彼女はナギのことも変な名前で読んで硬直させて欲しいです。そして0組は皆彼女に持ち上げられてるといい。キングを姫抱きするシンクとかとても可愛いと思います。キングにとっては災難でしょうが(笑)

2012/06/22 【FF零式】