アンバランス

「お疲れさん」
「はっ! 胸くそ悪い依頼ばっかり回してきやがって」
「俺に当たるなって! それに今回は付いてきただろ」
 肩をすくめた青年に対し、大鎌を武器とする少女は吐き捨てるようにわかっていると零した。かちり、刃先を鳴らして捕獲した相手の動きを牽制する。
「で? こいつどうするんだ?」
 重要情報の元であり、さらに無事に返さなければいけないという条件が付いていたことから、なるべく傷は付けずに確保したいという理由で0組に依頼された任務は、見事に達成されたことになる。
 諜報部に所属する青年が付いてきたのも、いざとなればその場で最低限の情報だけは確保したいという意図からだった。
 拘束され、地面に膝を付いたまま、不遜に鼻を鳴らした男は、脅したところで無駄だと告げる。いっそ見事なほど己が殺されることを度外視しているように見えるのは、己の価値を分かっているからこその反応だった。
 沸点の低い少女は、度重なる暴言にいつその鎌の先を引くかわからない。
「ちょっとそれ貸して」
 唇の形だけで少女の名を呼んだ青年が指さしたのは、彼女の武器である大鎌。男の後ろに回るようにして少女から武器を受け取る。
「……どうする気だ」
「こうするんだよ」
 つ、と。軽く手元を引けば、刃先が首元に食い込んで、男は大げさな悲鳴を上げた。
 ナギ、と。青年の名を呼ぼうとした少女だが、強い視線に射抜かれて思いとどまる。
 同時に唱えられた回復魔法によって瞬時に治癒した傷口は、しっかりと刃の先を噛み、男に異物感を突きつけた。
 さて、と言って笑った青年は、膝を付いている男の耳元に寄せるようにわずかに屈んで、さっさと話をしたほうが身のためだと告げる。
「俺はそんなに優しくないんでね。さて、あと何回くらい味わいたい?」
「やめてくれ!!」
 最終的に無事ならいいんだから何をやってもきっちり治してやると囁かれて、男が陥落する。
 効率良く必要な情報をすべて吐かせたナギは、脅しの刃を引き、傷を治してから男の拘束を解いた。全力で逃げていく男は追わないかわりに手に入れた情報を整理する。
 彼が見えなくなるまで少女は呆然と見送った。あまりの鮮やかさに声も出ない。
「サイス、武器ありがとな」
「あ……ああ」
 呆然としたまま返ってきた武器を握って、少女は頷く。
 刃の見た目が派手な武器は脅すのに楽でいいから今度から自分も使おうかと笑いながら告げるナギに対し、彼女はようやく己を取り戻した。
 へらへら笑う彼に先ほどまで男を脅していた暗さは無い。
「はっ……あんたじゃ似合わないよ」
「あっ、ひどい」
 ショックだという言葉の割にナギの口調は笑っている。そっぽを向いたサイスが、自らの武器を担いで振り返った。
 逆光になった彼女の表情は、ナギからは読み取れない。
「似合わないんだからあたしらに任務を任せてればいいだろ」
「サイス?」
「もうあんたには二度と武器を貸さないって言ったんだよ!」
 吐き捨てるようにして去っていくサイスを見ながら、青年は笑って、もう一度ありがとうと口にした。

ナギとサイスはムービーでも絡んでくれる貴重な二人ですが、サイスはツンツンなのが可愛いですよね。いざ迫られてタジタジになったサイスも見てみたいです。

2012/06/30 【FF零式】