BRAND NEW DAYS

 しっかりと水気を拭いたレタスの上にはからあげ、ブロッコリーとミニトマトを間に挟んできんぴらとちくわの磯辺揚げ。
 ご飯にはごま塩を振る予定で二段目いっぱいに広げ、冷ましてある。粗熱が取れたら端に佃煮を入れるのでその分のスペースはしっかり確保。
 そして忘れてはならないのは卵焼きだ。これだけは前日夜にリクエストがあった。
 特に何の変哲もない卵焼きだ。工夫と言えるほど工夫もないが、今回は弁当用に少しだけ砂糖を入れ、水は控えめ。巻き簀で形を整えてから寝かせてあった。
 弁当箱の高さに合わせて切り分け、少し他のおかずを寄せながら綺麗に詰め込む。
 ちょうど出た切れ端を口に運んだところでバタバタとした物音が響いた。
 わんと元気の良い声に続いて、おはようエミヤと告げる張りのある声。
「おはよう、セタンタ。随分とゆっくりだな」
「今日は朝練がないんだよ! 知ってるくせに」
 これではまるっきり男子高校生のいる家庭の会話だと笑い合って。あらかじめ用意してあった朝食を並べる。その間に顔を洗って制服に着替えてきたセタンタは引いてあった椅子に滑り込んだ。
「いただきます!」
 ご飯に味噌汁、甘塩鮭と海苔、ほうれん草のおひたしという典型的な日本の朝ごはんを平らげていく様子はとてもサーヴァントとは思えない。
「学校には慣れたか?」
「まあまあだな。アーサーのやつはめちゃくちゃ目立ってるけど、逆にそっちに視線が集中するからオレやニトクリスは逆に動きやすいぜ」
 ご飯を食べながらのくせに、合間合間で器用に喋る。話を振ったのはこちらなので行儀が悪いとも言い切れないことに気付いたエミヤは内心苦笑して弁当の仕上げにとりかかった。
 しっかり冷めたことを確認してからご飯にごま塩を振って佃煮を詰め込み、組み立てる。
 箸と一緒にランチバッグに入れてロールトップ式の上を閉じれば完了だ。
 もう一つの弁当箱も同じように閉じて椅子に置いてあったトートバッグの中に入れる。
「弁当だ。忘れないようにな」
「忘れねぇよ。今日はマスターと交換することになってるからな」
 とんだ爆弾発言には、ニトクリスはマシュとの接触に成功したらしいというさらにとんでもない追加情報が追加でくっついていた。思わず頭を抱える。
 どちらも初耳だぞと返せば伝え忘れていたと悪気のない応え。
 ニトクリスはセタンタと同じように生徒として潜入している。
 確か彼女の保護者枠はブーディカだったはずだ。
 本人は若干不服そうだが、現代日本という状況では学生に保護者がいないのは不自然なため必要な措置である。同じように学生枠で潜入している面々にはそれぞれ同性の保護者役が同居しているが、例外は保護者が忙しすぎて寄りつかないという設定のモードレッドだ。こちらはニトクリス達の隣に一人住まいで、必要に応じてブーディカが面倒を見る形になっている。
 学生組はマスターとマシュへの接触及び護衛を。保護者枠は学校がある時間帯に別途外側を調査しているといった具合だ。
 よくあることではあるが、無理矢理特異点に引っ張り込まれたマスターとマシュはカルデアの記憶を失っている。二人に現実を思い出させて取り戻すことと、聖杯およびそれに類するものを回収するのが今回の最大であり最優先の目的であった。
 マスターと弁当を交換する方向にセタンタが動いたのは単純な理由だ。つまりエミヤの飯を食べれば何か思い出すかもしれないというものである。
 そう単純に物事が運ぶとは思えないが、きっかけの一つくらいに慣ればわざわざ保護者枠としてくっついてきた意味もあるというものだ。
「そんじゃ行ってくる!」
「ああ、気をつけてな」
 バックパックに弁当を詰めて元気よく飛び出して行ったセタンタを見送ると、エミヤと子犬は簡単に朝食をとって片付けまでを済ませる。
「さて、では私たちも任務開始といこうか」
 ちらり。問えば即座に意味を理解した子犬は自らリードを咥えて玄関先に座り込んだ。
 まずは散歩に擬態した見回りだ。
 まるで普通の犬のように行儀よく横を歩いてくれる子犬だが、その実しっかりと異常を発見すれば飼い主役をしているエミヤを振り回す勢いで走り出すのを知っている。
 肩にかけたトートバッグには自分の分の弁当と必要なものがいくつか。
「今日もよろしく」
 わんっ、と。元気の良い返事を聞いて。エミヤは子犬と一緒に家を出た。
 近所の公園に向かう途中でバーヴァン・シーの保護者役をしているモルガンの元で家政婦の真似事をしているバーゲストと途中ですれ違い、挨拶を交わす。お互い犬の散歩中によくすれ違う顔見知り程度に見えるよう留めているので、詳細な連絡は周囲から見えないところで素早く交換された手紙によるものだ。
 バーヴァン・シーも生徒としての潜入であるが、直接マスター達に接触する役割というよりはアーサーと同じように周囲の目を逸らすために行動している。
 公園に着いたら併設されているドッグランに子犬を放し、手紙の内容を確認。
 魔術的処理がされているそれは読んだ後に閉じただけで内容がどうでもいいものに書き変わるようになっている。
「あの子はいつも元気ですね」
「おはようございます。ケイローンさん」
 にっこりと挨拶を交わす相手は完全に人型形態をとったケイローン。もちろんアキレウスの保護者役だ。
 そういえばから始まる雑談は間に情報共有のためのあれこれが含まれている。
 解読するのが大変なので他の手段にしないかと一度提案したことがあるが、いい修行になるだろうと却下された。どこをどうやったのか、普段は進学塾の講師をしているらしいので根からの教育者なのだと感心するばかりである。
 ケイローンと別れ、公園内で弁当を開き、少し早めの昼食をとる。子犬の分も持参しているのでそのあたりは抜かりがない。
 食事をとり、水を舐めていた子犬がふと耳を動かした。
「なにか見つけたのか?」
 応えとして返った唸るような低い声は警戒音だ。
 手加減なしに駆けていく子犬のスピードに付いていくのに、人に擬態したままでは厳しい。
 即座に周囲を片付け、静かに人の居ない方向へ移動してからしゃがみ込んだ。持たされていたルーンストーンを起動して隠行を施してからそっとリードを外す。
「頼む」
 わんっ。
 目的があるらしい子犬の後に続いてエミヤも足を早めた。
 風の速さで景色は遠ざかり、電車を使わなくとも簡単に学校まで到達する。場所は正面ではなく裏側だ。そこにぼうと立つ何かの気配がある。レイシフトしてきてから初めて大きく事態が進展しそうな状況だ。慎重に、だが機会を逃さぬようにすべきだろう。
 少し考えてから、アーサーの保護者役兼教員として潜入しているマーリンを呼びにいく役を子犬に任せた。
 滑るように駆け出して行った子犬を見送って。
 エミヤは現代に合わせた格好には不似合いな陰陽の双剣をそっと握り込んだ。

5/31「蒼天 赤を穿つ9」の無配でした。新米マスター応援キャンペーンとFakeコラボのだし巻きが悪魔合体した話(笑)Fakeコラボとてもよかったですね……!

2026/05/31 【FGO】