南瓜とリボンの色合わせ

「もうそんな時期か……」
 遠い目をしながら溜息と共に押し出された呟きを裏切るように、赤の弓兵の手元には色とりどりのお菓子の包みが作り上げられていく。
「言葉と行動が一致してねぇぞコラ」
「貴様に言われたくはない。そもそもなぜここにいるんだ」
「んなもん頼まれたからに決まってんだろうが。イイ女の頼みを無下にする男じゃねーよ、オレは」
 自分で言っていて恥ずかしくないのかとの突っ込みに返ったのは無言。代わりに出た手が作り上げられたお菓子の包みを攫っていった。
 机の端にはロールのままのラッピングペーパーやリボンが数本。バスケットも乱雑に積みあがっている状態だったのだが、状況は一目見ただけで把握したらしい。
 無造作に掴んだバスケットに適当に切ったラッピングペーパーを敷き、お菓子を詰めてからハンドル部分にリボンを飾る一連の動作に迷いはなく、色合わせも綺麗。
「数は決まっているか」
「いや、特には決まっていない。見た目良く入ればそれで」
「あいよ」
 そういえば花束を作るようなセンスはあるんだったかとどこで入手したのかもわからない知識を思い浮かべながら、次々に作られていくバスケット達をちらりと見た青年の視線をどう思ったか。
 もしかして決まった組み合わせがあったかという問いにはもうやっちまったけどという表情がセットだ。
 思わず吹き出してしまった弓兵に唇を尖らせてなんだよと文句とも言えない言葉を落とす様はらしくなく、さらなる笑いを誘う。
「いいや、特に決まりはないよ。ただ迷いがないものだと感心していただけだから気にしないでいい。むしろ、助かったと礼を言うべきか」
 自分だけではおそらく色選びだけで時間がかかったと自覚できるからこそ、素直に思ったままを告げて、手元に残ったお菓子の簡易包装を再開する。
 このバスケットは、今時のハロウィンらしいことがしたいというマスターの少女の提案で、マスターとマシュ、そしてお子様組に対してお菓子を配りたいと希望した者のうち、自前でお菓子を用意出来ない者に対して分配される。もちろん宗教上その他諸々の都合もあるので参加は自由だ。当日は各部屋の扉の横に小さなカボチャの置物を置くことで参加を示すことになっていた。
 何も言わずともその置物とロール状にしてリボンで止めた説明書も各籠に一緒に収まっている様子は見事としかいいようがない。
「……君は現代のハロウィンには馴染まないのではないのかね」
 ハロウィンの元と言われている行事が示す意味からだいぶ離れてきてしまっているそれは、もはや別物だとして苦笑した同一存在を知っている弓兵は、ふと疑問を落とした。
「まあな。だが、オレ自身のそれと、これの準備とは別のモンだろ」
 世間一般的な季節イベントをやりたがるマスターの意図は、それを書物による知識ではなく、己で経験することが無かった盾持つ少女のためである。
 皆がわかっているからこそ、こうして準備をしたり、参加をしたりする人物は多い。お子様組と言われるサーヴァント達でさえ、自分達がダシに使われているのをわかった上で楽しんでいるのだ。それがイベントを盛り上げる一番良い方法だと知っている。
「ランサー」
「ん……っと!」
 呼び掛けと、余った欠片を放るのが同時。
 視線を上げた瞬間にそれを把握した彼はリボンと籠を両手に抱えたまま口をあけて、放物線を描きながら落ちてきたものを器用に受け止めた。
 さくりと軽い音が上がる。
「ん。うめぇ。だが唐突すぎねぇか?」
 落としたらどうするつもりだと文句を言う表情は、そんなことはあり得ないがと告げていた。だからこそ青年のほうも期待に応えることにする。
「君なら落とさないだろうとわかっているのでな。さて、手伝いの礼だ。お茶程度ならご馳走しよう」
 どうせなら酒にしないのかとの要請は秒で却下して、席を立った。
 やがて供された紅茶に絡むのは一滴の酒精。香り付け程度のそれに気付いた槍兵が嬉しそうに目を細めてゆっくりとカップを傾けた。

2019/10/01 【FGO】