角に佇む

「よぉ、そこの色男。ひとつ占いなんぞやっていかねーかい?」
闇よりも昏い辻の角。
店先の灯もガス燈の灯も届かない場所にぼんやりと浮かぶ蝋燭の火がひとつ。
橙に染まる範囲は狭く。暗闇に紛れながらも浮かび上がるのはフードを目深に被った男。
伺える口元だけが笑みを形作って、客にと認めた男を誘っていた。
「……こんなところで一体何をしているんだね君は」
「おいおい、ノリが悪いぜ? 何をしているもなにも、引っ張られちまったんだから仕方ねぇだろ。お役目が来るまで適当に暇を潰しているだけさね」
どうにも帰れる気がしないということはそれ相応の役目があるのだろうと告げて肩を竦めるフードの男に、客として声をかけられた赤い外套の青年は溜息を落とした。
「やれやれ。今回は逃げたと聞いたからその顔を見ずに済むと思っていたのだがな」
「そいつは残念だったなぁ。詫び代わりに安くしとくぜ?」
「たわけ。そんなことをする意味がどこにある」
ちゃり。
簡素な台の上でルーンストーンらしい石が鳴く。
つれないと息を零して立ち上がった拍子に、頼りない蝋燭の炎はかき消えた。
ただでさえ曖昧な姿がさらなる闇に沈む。
しん、と。気配すら掻き消えたかに見える闇に向かって青年は首を傾げた。
「キャスター?」
「おっと…。どうも曖昧でいかんな……すぐ場が揺らぎやがる」
「……どういうことだ」
ぽう。再び蝋燭に火が灯り、青の布端がわずかにはためく。
「オレも詳しくはねぇが……おそらくこの場における名の由来が複数あるためにそれらが混ざっているんだろうよ。どうにもここは噂と伝説とを綯い交ぜにした閉じた場所らしいからな」
いずれにしても、この場を統べるのは自分ではなく魔女だ、と。男は告げる。
「オマエは元凶を知ってるな? まあ、そいつぁどうでもいい。オレぁただの占い師として適当にやってるさ。マスターの坊主が動いているんだろ。なら早晩決着が着くだろうしな」
茶番に巻き込まれたとて、場を閉じてしまえば戻れるだろうというのは、今までの経験から分かっている。
だったら大人しく成り行きに任せるのが得策と言えた。
「ふむ。確かにその通りだ。彼女の考えがどうであれ、マスターが動いている以上そう時間はかからないだろう。阻止する側に付いている私が言うのもなんだがな」
「そういうトコだけはノリよくなったよなあ、オマエ」
「心外だ。ただ彼女の気持ちも多少はわかる、と思うだけのこと。それで気が済むのなら多少であれば付き合わないこともない、というだけだ」
眉間に皺を寄せて告げる青年に、フードの男はへいへいと生返事で笑いかける。
ふと、何かの気配を探る様にその瞳が上がった。
「弓兵。どうやら奴さんが近づいているようだぜ」
持ち場に戻った方がいいんじゃねぇのか。
「ふむ。こう言う時の君はマトモな助言をするからな。従うとしよう」
「こう言う時は余計だわ、たわけ」
やりとりはどこか気安く、揶揄いの気配が混じる。
では続きは無事に戻ってからでも、と。冗談のような本気のような一言を残して、赤の青年は踵を返した。
昏い路地から灯りの下へ。
街灯に照らされた赤が一瞬にして掻き消えたのを見送って、男は視線を転じた。
闇の中から現れたのは場違いな白のスーツの男達。
「兄貴……」
「オマエらなあ……その呼び方なんとかならねぇのかよ。いや、いいけどよ」
厳つい顔の男達は先刻勝手に店を出しているフードの男に難癖をつけたために綺麗に伸されて押しかけ舎弟になってしまった者達であった。
「ま、とりあえず間も無くお客さんの到着だ。歓迎の準備をしようぜ」
獰猛に笑う男につられるように男達も牙を剥く。
お手並み拝見。
弓兵が消えた方向を見ながら、フードの男は風に己の髪をなぶらせて目を細めた。

ぐだぐだお疲れ様でした。 裏・目黄不動ネタです。つまりは占い師さんです。 なにその名前……萌えるだろ……となり、冒頭一文がやりたかっただけです。 相変わらずの妄想っぷりですがとても楽しかったです。

2018/06/27 【FGO】