あなたへの食事
「……なんだ」
困惑のはずの声音はほとんど感情を揺らさず、ただ零れ出た、というように男の唇を湿らせる。
他の面子を集めてくるから待機していてくれとの命で不慣れなはずの食堂の隅で時間を持て余しているというのが現状。
特に何をするでもなく宙を泳いでいた目が落ちて眼前に立った人物を見る。
獣の手足。獣の耳。なんとなく覚えがあるという曖昧な記憶に目を細めた男は、再度同じ言葉を繰り返した。
返されたのは満面の笑み。
「もちろんおまえの食事なのだな」
さあ食べろ。食べるがいい。
有無を言わさぬ声。サーヴァントが食事をしてどうすると退けようとする男の前で、へにょりと耳を下げて泣き崩れた獣は、それでも諦めずにテーブルの端から頭を覗かせた。
そのまま無言で見つめられてしばらく。
男は溜息を落として目の前の料理を口に運ぶ。
味わうことはない。そんなものはとうにないのだから。
しゃくり。
むぎゅ。
かりかり。
ぽき。
とろり。
さくり。
もっちり。
さらり。
いくつめかの料理を口にして、彼はようやく気付いた。
「おい……」
「にゃははは。言ったであろう。それはおまえのものだと」
目から上を出した獣が笑う。
少しずつ並べられたそれらは確かに男のための食事だった。
口にしたことに満足したのか様子を伺っていた獣はひらりと踵を返して鼻歌など口ずさみながらその場を離れ、残された皿の下には、次も楽しみにしておくがいいとの書き置きがひとつ紛れ込んでいた。
2019/05/16 【FGO】