My girl

 真夏の太陽が地面を焦がしている。
 日差しを避けて手近な建物に入り、最上階あたりでぐるりと視線を巡らせれば、絢爛豪華な街の境目と、その向こうにひたすら乾いた大地が見えただろう。
 だが男のここでの城はそんな華やかな景色が見える位置ではなく、どこか薄暗い小さな空間だ。
 バーとして営業しているそこで細々と稼ぎながら、裏で少しだけ糸を伸ばす。そんな日々。
 それでも時にはそこから抜け出して太陽の下を歩くこともある。
 大通り沿いのホテルにある噴水の傍。色とりどりのパラソルが咲き誇るオープンカフェの一角に目当ての相手はいた。
 その一帯は所々に置かれた冷却システムから涼しげなミストが降り注ぎ、少しだけ暑さは和らいでいる。
 ぐったりとテーブルに身を預けている少女は男が近付いても反応を示さない。
 やれやれと苦笑した男はひたりと持参してきた冷たいドリンクを彼女の頬に当ててやった。
 じゅう、と音がしたのは気のせいだと思いたい。
「……ん。ぱぱ?」
「こんなところで寝ていては熱が篭るばかりだろうに」
「やくそく、だから」
 ゆっくりと瞼を押し上げた少女は、逆光になった男の顔をちらりと見ただけでまたすぐぐったりとテーブルに懐いて動かなくなった。
「そうか。遅れてすまなかった」
 アイスを食べるかととの問いを落とせば、僅かに躊躇した気配があった直後に食べるとの返答。
 そこまで予想できていた男は即座にもう片手に持っていたパフェを彼女の目の前に置いた。
 グラスから漂うどこかひやりとした空気が届いたのか、即座に目を開けた少女はがばりと体を起こす。
 絶妙なタイミングで渡されたスプーンを手にひとくち。
「……おいしい」
「そうだろうそうだろう。なにせカルデアキッチンの守護者殿にご教授願ったからネ!」
「ぱぱが?」
 ことり。首を傾げた仕草がなんとも可愛らしい。
 理性を飛ばしかけながらも平静を装い、もちろんと大きく頷く自称アラフィフ紳士だが、どうにも緩んだ目元は隠しようがない。
 サバゲーはもういいのかと問えばもう負けたから終わりなのだと少しだけ不満そうに告げる。
「そうかそうか。それじゃあ少しだけパパとデートしてくれるかナ?」
「しかた、ないなぁ。このぱふぇのぶん、だけね」
「構わないとも。とりあえずはちゃんと冷房の効いている場所に移動しようか」
 水着の少女とバーデンダー服のアラフィフというのはどうにも見た目がよろしくない組み合わせだが、この場に集ったサーヴァント達はすでに慣れてしまっており、今更どうこう言うこともない。
 それは少女が拒否するときはすると知っているからだ。もちろん物理込みで。
 たまたま買い出しに通りがかった赤い弓兵もその例に漏れず、ただ目を細めて手を繋ぐことは拒否されて項垂れた男と、ご機嫌にステップを踏む少女の姿を見守った。

2020/08/08 【FGO】