Glory of the Beast

  1

 地鳴りのような歓声が聞こえる。
 実際のところ興奮した観客が足を踏み鳴らすため振動が伝わっているのかもしれなった。
 閉め切られ、どこか水気を感じさせる部屋に吐息と一緒に僅かに色を纏った声が洩れる。
 何度も握り込んだ布には強く皺が刻まれ、丸められて持ち上げられた体ごと石の飾り台に押し付けられた負荷は実際の力以上に重かった。地を蹴る足先が体勢を立て直そうとするが、全て徒労に終わる。
 唯一破られることなく身につけることが許されていた腰布は中途半端に剥ぎ取られ、片腿に絡みながら床まで伸びて衣服としての役割を放棄して久しい。
「……ぅ、ぁ」
 噛み殺しきれなかった声と溢れた唾液が飾り台に重ねられていた布に落ちていくつかの染みを残した。
 ぱさついて色が抜けたような髪と濃色の肌を持つ人物はしっかりと筋肉のついた成人男性の体を持つ割にどこか幼く、実年齢は知れずとも青年と呼びかけて違和感がない。
 だからこそ。滑らかな外骨格に鋭い棘を持つ生物を思わせるなにかが動きを封じるように伸し掛かり、鉤爪のようなものががしりと腰を固定して。隙間から這い出すかのように黒の靄がゆらと揺れて四肢に絡む光景は異様であった。
 正体も知れない、生きている気配もしないそれの端は飾り台の下部と素材不明の鎖で繋がれている。
 ぎちぎちと悲鳴を上げる鎖を限界まで伸ばして首を擡げ、獲物を検分するかのように捕まえた青年を見下ろす体勢は捕食者のそれ。
 その骨格に繋がる場所の一部は不自然に突出し、長く伸びていた。
 細くつるりとした軟棘とも口吻ともつかぬものが固定されて動けない青年の後孔へと埋められている。
 ほぼ抵抗なく奥まで到達したそれは、内壁を探り、襞を擽り、奥壁を先端で舐るように刺激しながら、魔力への変換が間に合わないまま残されていた残滓を求めて動き回った。
「……ッ、く」
 何かに気付いたのか。動きは徐々に収束して奥壁に吸い付き、押し上げて。僅かに開いた場所から溢れる白濁を周囲ごと吸ってはさらに奥へと先を潜り込ませていく。
 明らかに人ではない相手に思考能力や感覚があるのかは不明。客観的に見た場合の状況は犯されていると表現しうるものだが、内壁を探るそれに陵辱の意思は感じられなかった。
 機械的とでも言えばいいのか。
 青年を抑え込んだものが元々狂王の装備だというのなら、単純に獲物として捕らえた青年の内に残っていた狂王の魔力に反応し、摂取だけを目的として本能的に動いた結果である可能性は高い。
 魔力が混ざるのを嫌っただけかもしれないが、流血沙汰にならないだけマシか。
 腹の中、内壁を直接吸われる経験などそうあろうはずもない。内を蠢くものは細いため圧迫感はないが異物感はあり、奥壁を集中的に刺激されながら、途中で捻れるように折り曲がったものでやわやわと適度な力加減で前立腺を押され続けた体は徐々に快楽に塗りつぶされていく。
 相手にとっては何度も狂王と体を重ねた青年が意思とは裏腹に快楽を感じていること自体がどうでもいいことなのだろう。
 奥壁が緩めばそれだけ残されていた魔力の残滓は流れやすくなる。狂王が相手でも最奥の先を許したことはないが、許される限りの奥で吐精された白濁は、僅かに開いた部分を超えて入り込み、青年の腹の内に留まっていた。
 じりじりと。じりじりと。狭窄部を押し広げて進む先端が周囲を喰み、捏ねて吸い付く。
 いつしか残留している魔力だけではなく、快楽を通して隆起した青年自身の回路から魔力を引き出すことを学習して啜るようになったそれは、さらに時間をかけて奥を開き、反応に対する変化として挿入していたものの形状を変えた。
 いくつか大きさの違う膨らみを発生させ、枝分かれしたそれらは突起とも逆棘ともいえる形状になって内壁を刮ぐ。
 刺激に反応して意図せず揺れた青年の腰が自ら最後の快楽を引き込んだ。
「ぁ、い……ッ、ん……ぅ!」
 いくつかの襞に引っ掛かるように並んで発生した小さく滑らかな逆棘と、一際大きく膨らんだ突起部に精嚢裏と前立腺とを同時に刺激されたことで押し出された白濁は、中途半端に勃ちあがったままの前からとろりと零れ落ちる。
 勢いのない精は味見でもするかのように伸びた別の突起物に絡め取られていく。
 痙攣し震える体がさらなる刺激を呼び込んで。奥まで埋められたものを食い締めながら極めると、内側で分離し、数を増やした突起が捻れ動いてぞろりと内壁を舐めた。
「ぁ、ア!」
 細かったはずの軟棘はいつの間にか隙間なく内を埋める太さになってはいるが、時間をかけて慣らされた後孔は柔らかく広がってそれらを包み込んでおり、痛みで気を逸らすようなことは不可能。まして、埋められたままほぼ動かされていないというのに、徐々に増えたり減ったりする突起部のせいで次々と慣れない刺激に襲われることになった。
 噛み締められ、強く握られた飾り台の布が緩む時はなく、青年は何度も吐精せずに達して声なき悲鳴を上げる。
 足先はとうに地を蹴ることすらできず、押し付けられているために崩れ落ちることができないだけ。
 はたり、はたり。
 触れられることもなく、絡みつく空気が触れるだけの前から押し出された白濁が、完全に地面に落ちてしまった腰布にいくつも染みを作っていく。
「……っ、は……ぅ……んぅ! ァ、アアッ!」
 ひときわ大きな絶頂に脳を灼かれた青年の耳には届かなかったが、堪えきれずに響いた嬌声をかき消すように叫びに近しいほど大きな歓声が振動となって空気を、建物を揺らした。
 勝者に栄光を。勇敢に戦った敗者には恩赦を。
 熱狂が支配する場は一種の魔術礼装として成立し機能する。魔力の流れが変わり、唐突に飾り台から噴出した光は魔力を帯びて、骨格鎧を繋いでいた鎖を消し去った。
 自由になった骨格の鉤爪が緩み、身を起こしたことで背を押していた重みが消えた瞬間、風切音が駆け抜ける。
 鼻腔を擽る血と汗と砂の匂い。
「テメェ……なんのつもりだ」
 低く怒りの滲む声音は聞き慣れた男のもので、なぜかひどく安心する。
 荒々しく青年の身から引き剥がされた骨格鎧が後孔に埋めていたものを見たらしい男の無言の怒りが炎のごとく周囲の空気を揺らめかせる。結果、骨格鎧は鈍い音を立てて男の槍に貫かれ、壁に磔にされた。
 悲鳴はない。抵抗もない。ただぎちりと骨格の継ぎ目が鈍い音を上げただけ。
 陵辱するような意図はなかったと信じられるのはこういった反応故だ。
 支えを失って地面に落ちるだけだった青年を受け止めたのは力強い腕。あっという間に飾り台の上に背を付けた体勢で転がされて見下ろされる。
 骨格鎧に感じたものと同じ感覚。獣の視線だと理解する。
「きょ、うお……」
「拒否はないな」
「もち、ろん……っア!」
 言わんとすることを理解して自ら震える脚を開く。
 途中から男の腕に掬われた足先は彼の肩に担ぎ上げられ、後孔に熱が触れたと思った瞬間、浮いた腰ごと貫く勢いで押し込まれて背を逸らした。
 圧倒的な質量が乱暴に内壁を押し広げながら奥までを埋める。
「ァ、ぅん! 待っ……ん、あ……いき、なり……ふか、いァ……あアッ!」
 普段よりさらに深く。押し付けられた先が散々弄られて柔らかくなった最奥をひらいていく。
 嗅ぎ慣れた香りと圧迫感が体だけでなく心を満たして。気付いた瞬間にふ、と力が抜けた。
 ぐぷん、ぐぷ。
 かつてないほど奥へと埋められた熱が狭窄部を出入りするのにあわせて、無意識に締められた内壁全体が揺すられる。
 即座に戻ってきた快楽の波が理性を食い尽くし、奥を突かれるたびに絶頂を重ねて。
 体を揺らされる度に腹の間で擦られ首を擡げた前はとろりと涎を零して細く系を引いた。
 獣の息遣いが近く、胸元に触れて。滑り落ちた狂王の髪の先が肌を擽る。
 高く掠れた声が自分の喉から押し出されるのを遠くに聞きながら、青年は普段よりも深く注がれた魔力の奔流に流されて意識を飛ばした。

  2

「新入りが増える。到着は夕刻、明日昼の闘技試合に出す。用意しておけ」
「……承知しました」
 ご主人様、と。丁寧に返した濃色の肌をもつ青年は即座に行動に移った。
 訓練もなく試合に出されるということは戦争捕虜かそれに類する者である可能性が高い。ほとんど聞こえないくらいの声で去り際に落とされた呟きは、残念ながらしっかりと青年の耳に届く。
 見目は整っているらしいから客は喜ぶだろう、と。
 聞きたくもない言葉を聞いてしまった青年はそっと目を伏せて聞こえなかったふりをした。奴隷という身分ではそうするより道はない。
 地方にあたるこの街ではそもそも定期的に剣闘試合を行うほどの人材が揃わないことの方が多かった。
 それでも興行自体は民衆の息抜きのために必要との判断で闘技場を用意し、定期的に捕虜を連れてきては魔獣との試合を行わせて誤魔化している。
 青年の今の身分は連れてこられる捕虜達の世話係といったところ。
 食事や武具の用意、生活全般のサポート、時と場合によっては鍛錬相手などの内容が含まれ、人が増えればそこそこ多忙にはなる立場だが、今のところそんな事態にはなっていない。
 闘技場とそれに付随する居住スペースから出るには外にいる見張りから鍵付きの扉を開けてもらう必要がある。これは魔獣や捕虜としてやってきた者が街に出ないようにするためだ。
 見張りの兵士達が生活している場所とは隣接しており、そちらには鍵がないものの、併設しているが故の利点もある。剣闘士や魔獣が暴れた場合に対処しやすく、隣接部に浴場を作ることで風呂に入ることもできるといった具合だ。
 奴隷身分とはいっても労働の対価を貰っているということと、人の財産として登録されているという以外に特に強い制限はない。
 幸い、主人からの暴力などもなく、衣食住も保証されている。たまに感じる不便は支給されている衣服が動きやすいようにと膝上あたりまでの貫頭衣一枚であるため、下手をすると下着として着ている腰布が見えてしまうことくらいだ。
 濃色の肌色と相まってどこに行っても市民ではないという立場を語ってしまうことについては、照りつける太陽で灼かれるのが熱い以外の不都合は特にないので問題にはならない。
 実際、青年に限って言えば、周囲は皆顔見知りであるし、特に出入りを咎められることはない。捕虜や魔獣の補充がある際には隙になってしまうので多少気を使う程度である。
 今回の闘士は何日保つのかと思案しながら、軽く身支度を済ませてから買い物に出た。
「さて、どうするか……」
 本人との対面はまだ先。体格も得意な武器もわからないため武具を先に用意することはなできない。ならば先に食事の用意だろう。
 麦、チーズ、干し肉に豆と野菜。衣服は保管してある分を使えば足りるだろうか。
 いくつか顔見知りの店を回って必要なものを買い揃えると、闘技場敷地内に併設して作られた居住スペースへと戻った。
 厨房に直行すると、まずやることは買ってきたものの整理と保管。次に新しく来るという剣闘士の男のために部屋を整える作業に移る。
 もっとも、普段から適宜掃除はしてあるので寝具を作って運び込む程度だ。
 寝台としても椅子としても使えるように、部屋の中には予め石で作られた一段高くなっている場所が存在している。亜麻で作られた布袋に藁や干草を詰め、偏りを整えながら置けば寝台の完成だ。
 灯りのためのオイルランプは部屋壁の一部、少し窪んだ場所が定位置だが、入りたての捕虜には危険性を考えて支給されないことが多い。そのあたりはおいおいということになるだろう。
 部屋の準備が整ったら次は食事の用意だ。
 闘技試合の都合に合わせて捕虜が輸送されてくる場合はろくに食事を取れていない場合が多いため、一旦胃に重すぎるものは避け、それでもしっかりと栄養を取れるものを選ぶ。
 大麦と豆を煮るついでに野菜と塩漬けにして干した肉を追加。適宜灰汁をとり、様子を見ながらオリーブオイルと塩で味を整える。
 分類としては麦粥だろうが、普段なら付け合わせにするような野菜も一緒に入れたため、そう表現していいものかは悩むところだ。
「随分といい匂いをさせているな……量はあるか?」
「はい。もし必要があれば輸送隊の方々にもお出しできますが」
「なるほど、想定済みか。なら頼む。間に合わせるために急いでもらったからな」
 わざわざ顔を出したのは青年と同じ奴隷の一人。
 同じ奴隷と言っても彼の方が立場は高く、普段は主人の従者をしている人物だ。今回は状況が状況だったので輸送隊を率いてきたのだろう。旅装で、少しだけ汚れているのが見て取れる。
 了承を返した青年は先に食事をさせるために食堂の用意を急いだ。入ってきたのは六人。まずは果実水を配り、一息ついてもらってから麦粥を提供する。
「荷の具合は如何ですか?」
「ああ……今回のは見目がいいから、順調に勝っていければ人気が出るだろう。狂王なんて大層な名で呼ばれているが、道中暴れるようなこともなかったから、扱いやすいはずだ」
「珍しいですね」
 戦争捕虜になるような者は多かれ少なかれ荒れているのが普通だ。
 今回運ばれてきた男が輸送中に反抗的な態度を取らなかったというだけで驚くに値する。
「これは噂だが、大切なものを中央の奴らに奪われているらしい。取り戻すために地方から勝ち上がってこいと言われて大人しく従っているという話だ」
 そして同じ境遇の者は複数おり、それぞれ別の地方闘技場に引き渡されたと続けられて納得した。
 伝え聞く話を集めて考えれば今の皇帝がやりそうなことだと思う。
 なるほどと頷いて礼を述べ、少し遅れて姿を見せた魔獣の世話担当にも食事を振る舞った。
 最初に声をかけてきた従者を含めて全員を送り出してから、青年はようやく今日連れてこられたという捕虜を一時的に拘束している場所へと向かう。
 どれくらい落ち着いて話ができるか不明なので最初は鉄格子越しだ。
「初めまして、私はアーチャー。ここでの生活についてのサポート全般を言い付けられている」
 ここまでで反応はない。床に座ったまま俯いている男の表情は窺えない。
「まずは食事をしてから今後の話をしようと思っているのだが……」
 食事と言ったからか。うそりと瞳を上げた男と視線が合う。それ以上の反応はないが、視線が先を促していると感じた青年は続けた。
「貴方は戦争捕虜だということだが、こちらに来る間も冷静だったと聞いたので、細かい話は食堂でしても良いだろうか。その前に、話をするのに不便なので名を伺いたい。もちろん、本名でなくても構わない」
「……その持って回ったような言い方を改めるなら好きに呼べ」
「承知した。ああ……立場が上の者と話をすることが多くてな。多少出るかも知れないがそこは許して欲しい。善処はするよ」
 主人にぞんざいな言葉遣いをするわけにはいかないので、普段からそこそこ丁寧に喋っている。
 わざとでなければ問題ないとの返答を得て、青年は息を吐いた。
「それでは狂王、と。そう呼ばれていたと聞いているが、不快だったら言ってくれ」
「構わん。好きに呼べと言ったのはこちらだ」
 真っ直ぐに合った目には諦念も激情もない。
 再度承知したと返した青年は鉄格子の扉を開く。
「このまま私に着いてきてくれ」
 まずは食事。先刻作ったものを出し、彼が食べている間にこの場所と今の立場を説明する。
 とはいえ、彼自身も自分がやらなければならないことは理解している上に協力的なのでそう手間はかからない。
 ならば次は風呂だ。明日のために身を清めて闘技服を合わせる必要がある。
「風呂があるのか」
「ああ、ちょうどこの裏が兵士達の宿舎でな。風呂に流す湯を共有しているんだ」
 彼らは交代制なので多少温度にムラはあるが使えない時間はほとんどない。
「今だと少し温いだろうが、そこは我慢してくれ」
 ここにある風呂は規模も小さく、簡易的なものだ。
 アーチャーだけならば外の浴場に行くこともできるが、闘技奴隷として連れてこられたばかりの者はそうはいかない。
 闘技試合は市民のための娯楽でもあるため、ある程度は参加者の見栄えを気にする必要があり、訓練や試合の状況次第では一般的な入浴時間とは大幅にずれたり、マッサージを含めた特別な対応が必要になる。
 このあたりには細いながらも地下から湯が沸いていたことを幸いとして専用の浴場にしてしまったという経緯があった。
 浴場全体を温めるために多少は沸かしているが、元の温度がそれなりに高いことから沸かす労力自体はさほどでもないらしい。建前は隣接している兵士達のためなので文句が出ることもない。
「構わん」
 一人で出来ると主張した男に対し、衣服の用意や今後の食事のために体を確認させて欲しいと告げて説き伏せた。
 貴重品ではあるが使い所だろう。ここぞとばかりに石鹸を使って男の全身の汚れをざっと流した後、湯に浸からせておいて泥と砂で固まった髪を丁寧に洗い流し、整える。
 断りを入れてから身体のあちこちに触れて、ずっと同じ体勢でいたことによる筋肉の固まりを解し、闘技服を見繕うためにサイズを測っていった。
「すまないが次は立って……きみ、相当な美形だな」
「唐突になんだ」
 僅かの間ではあったが、綺麗に汚れを落とした男に青年が見惚れたのは無理もなかっただろう。
 長旅を経たボロボロの衣服はとうに放り投げられ、惜しみなく筋肉を晒した裸体であることも手伝ったかもしれない。
 最前線を駆ける戦士の、均整のとれた肉体に男臭く整った顔が乗っている。洗うのに苦労する程度には髪が長いが、女性的な要素にはなっておらず、寧ろ鬣のような勇壮さで彼の身体を彩っていた。
「……実力が伴えば人気が出るという話だよ。中央に戻れるのが早まる」
「そいつは重畳だ。外面なぞ心底どうでもいいが、必要なら利用する」
「なるほど。ならば私も最大限見栄えのいい衣装を見繕おう。武器は槍かね?」
 獲物の種類を聞かれたのは意外だったらしい。目を見開いた男に対し、用意するのは自分だから多少の融通は聞くと告げながら苦笑する。
 そのまま少し待たせて必要な分の採寸を終わらせると、水気を拭くための布を手渡した。
「すまないが少し待っていてもらえるか。とりあえずは今晩用の服を用意してくるよ」
「ああ」
 用意するのは自分が身につけているような膝上の貫頭衣だ。一枚の布を纏って腰で縛るような形なので、横の部分が空いており、ある程度は融通が利く。日常用ならリラックスしやすいように帯は共布だが、戦闘時なら深めの色をした革か、いっそ金属でも映えるかもしれない。
「ふむ……いっそ上半身は晒した方が受けがいいかもしれないな」
 マントや毛皮などが使えれば映えそうだが、地方で獣相手であるうちには無理そうだ。こだわりを考え出すと長くなりそうなので闘技服のことは一旦脇に置いて、急ぎ必要なものを手に男の元に戻った。
「待たせた。服を着る前に香油を塗らせてほしい。君自身の保湿目的も多少あるが、どちらかというと周囲に対する宣伝効果用だな。先程全身の筋肉を見せてもらったことからの予想だが、君の戦い方は俊敏さを生かした獣のそれだろう。ならば、纏う香りは理知的なほうがいい」
 そんなにきついものは選んでいないと続けて確認してもらう。爽やかで深い森のような香りは知性を感じさせ、戦士としての男とは不似合いにもかかわらず、意外にもよく似合った。
 香りは嫌がるのかと思っていたが、意外にも男は二つ返事で使用に同意する。
 理由は明確だ。最速で中央の剣闘試合に参加するためなら使えるものは使うという割り切りである。
「なるほど。君は目的のためにはブレないのだな。では失礼するよ」
 香油を垂らし、湯に浸かったことでだいぶ緩んでいた筋肉をさらに整えるように塗り広げる。爽やかな香りが満ちて、乾いた土の香りを僅かに遠ざけた。
 体の次は髪先までしっかり梳かし、そちらにも少し香油を付ければ完了だ。改めて服を着た男を部屋へと案内する。
 日はだいぶ傾いてきているがまだ落ち切ってはおらず、薄くではあるが部屋にも光が入っていた。
「すまないが今日のところは灯りの用意がないので我慢してほしい。なるべく早く用意するよ」
「今後も不要だ。夜目は利く」
「承知した。必要になったらいつでも言ってくれ」
 ほぼ寝台しかない部屋である。見ればわかるものに説明の必要はないだろう。暴れたり脱走したりする可能性も限りなく低いと判断して扉代わりの鉄格子は開けたままにする。
 必要に応じて夜中だろうが叩き起こされる青年の寝室は食堂の横だ。作り自体は狂王に宛がったそれとそう変わらない。
 闘技試合用の衣装材料を揃えてから纏めて部屋に持ち込み、日が落ち切るまでの作業にした。
「敏捷さを生かすならば装備は最小限。袖は不要だろうから布巾の狭いものを……」
 帯は布製より革の太めのものがいいだろうからそれに合わせて腕と足に同素材の防具として装備を追加することに決める。
 踝までを覆う革靴には底鋲をつけ、紐はしっかりと結べるように確認しておいた。
 残りは武器だが、これは主の指示もあって簡単に手に届く場所に置いておけないため、翌日に回して寝てしまうことにする。
 それにしても。
「美しい、男だったな」
 野を駆ける獣のようだと思う。そんな男を闘技場という檻の中で飼い殺しにする選択は地位のある者が好みそうだというのも理解はできるが、同意したいかと言われれば否だ。
 幸い瞼はすぐに落ちて、眠りの薄紗が意識を覆う。
 次に青年が目を開けたのはいつも通り空が白み始めた頃合いであった。
 いつも通りの朝。背の下にはだいぶ中身が押しつぶされて薄くなってしまった寝台。
 多少体は痛むものの、慣れてしまえばどうということもないらしいと苦笑を落とす。
「今日は昼から闘技試合か。かなり久しぶりだな」
 試合のある日は普段の作業に加えて準備が加わるため時間配分が狂う。まずはさっさと通常業務を終わらせてしまおうと、速やかに調理場に立った。
 食材を確認してから作業台に並べ、一瞬目を伏せて細く息を吐く。
 紡ぎ出されるのは暗示の言葉。直後に手に握られたのは包丁だ。
 青年に詳しい原理はわからないが、ここには魔力という概念があり、人によってはそれを使って火を起こしたり清掃したりすることができる。
 そして、彼は固有の能力として魔力を刃物にすることができた。
 この場で重宝されるのはその能力故だ。
 食事を作る際には一時的に包丁を作り、終わったら魔力へと還す。
 やってきた剣闘士には本人の希望と多少の見栄えを加味した上で必要な形の武器を作って渡す。
 彼の作る武器は一試合使い捨ての強度のものだ。
 試合中は適宜観戦し、折れないようにと魔力を込め続けるが、決着後に意識を外せば容易く折れて溶け消える不思議な武器。
 武器を渡した相手が暴れても即座に取り上げることができることも見逃せない。どんなに荒くれた戦争奴隷でも、アーチャーに危害を加えれば武器を入手できなくなり、脅したところで簡単に折れて使い物にならなくなる武器しか入手できない。
 片田舎の闘技場の割にやってくるのは屈強な者達が多かったが、脱走などのトラブルは皆無だった。
 もっとも、そんな面倒な事情以前に、胃袋を掴まれてしまうのが常であるが。
 時間の関係で昼食は剣闘試合の直前になってしまうため難しくなる。
 朝は平たく丸いパンと少量の塩などという簡素なものであることが多いが、今回は昼と兼用にすることを決めて、品数を増やす方向に舵を切った。
 パンを焼く石窯を使い、転がしながら加熱した卵を少しと、オリーブの塩漬けに豆類を混ぜて酢と油を絡めたもの、昨日の麦粥に使った残りの肉を割いて茹で戻し、根菜とリーキを足す。
 食事の順番もいつも通りだ。自分は味見を兼ねて調理中に少しずつ食べるため、まず魔獣担当に出し、終了してから狂王を呼びに行く。
「起きているかね?」
 開放したままの入り口から中を覗くと、床に座って体を解していた。返事はないが中断したのを見てとって食事だと告げる。
 素直に付いてきた男に提供した食事はかなりの速さで綺麗になくなった。
 もしかしたら朝から量が多かったかという心配は無用だったらしい。もう少し動きたいという言い分に頷いて訓練場へと案内する。
「ここは好きに使って構わない。今は君一人だし、必要なものがあれば可能な限り用意するよ」
 訓練場には砂を詰めた袋や木杭などのほかに水時計も設置してあった。
 一通り使い方を説明してから自分は他の作業をしているから何かあったら呼んでくれと続ける。
「これが落ち切るまでで切り上げて、昨日も入った浴場に来てくれ。試合の準備をしよう」
「ああ」
 そのまま男を残して訓練場を後にしたアーチャーはまずは食事の後片付け。それから浴場側の支度部屋へと必要な衣装などを運び込む。
 周囲に誰の気配もないことを確認すると、手を前方に伸ばして軽く瞳を伏せた。
 ぱちり。魔力が走って形を持ち、伸ばされていた手に重さがのる。出現したのは警備の兵士が使っているような、何の変哲もない槍だ。
「……不恰好だがまあ、こんなものか」
 とりあえずは一度振ってもらってから調整を考えることにする。
 まだやっているかと槍を手にしたまま訓練場に顔を出すと、男はすぐにこちらに気付いた。
「邪魔をしてすまないが、君の意見が聞きたい。いいだろうか」
「問題ない。使ってみろということであっているか」
「ああ。そのために持ってきたんだ。意見を貰ってもすぐに調整ができるかはわからないがね」
 槍を受け取った狂王がそのまま訓練場の中央に向けて歩を進める。
 ひゅうん。
 風を切る音は重い。おそらくはバランスもそう良くはない。それでも、何度か振るううちにどんどん研ぎ澄まされていき、くるくると回っていた穂先が高く天を突くのを見る。
「使えなくはないな。強いて言うなら拳ひとつ分ほど長いほうが好ましいくらいか。強度は調整できるようなものでもないだろうからこちらが合わせればいいだけだ」
「驚いた。確かに兵士が使うような武器なので強度に関してはどうにもならないが……長さに関してはおそらく対応可能だ。少し待ってくれ。」
 希望の長さを聞き、返してもらった槍を手に一度部屋に戻る。周囲を確認してから一度魔力に返し、希望された長さで作り直した。
 いずれは知られることだろうが、最初から手の内を明かすつもりはない。
 ふむ、と一人頷いて。本人から直接聞きはしなかったものの、彼が振っているのを見ていて気付いた感覚をそのまま反映したらしい。少しだけ重さのバランスが変わっているのに気付く。
「これは余計なお世話かな……とはいってもやってしまったので今更だが」
 なぜか彼は気にしない、というより無言で槍に己を合わせてくるだろう確信がある。
 実際、再度手渡した際の反応は薄く、軽く振った彼は頷いただけでそれを受け入れた。
「時間をとらせてしまったな。それでは試合の準備をしよう。着飾るというほどではないが、なるべく観客を味方にできるようにする必要がある」
「任せる」
「では服を脱いだら湯を掛けるので、汚れを軽く流したら湯に浸かってくれ。頭をこちらに……私が髪を洗うので、その間は温まって筋肉を緩めておいてくれ」
 要請への返答は無言の行動。素直に湯に浸かり、床に置いた枕代わりの台に首を乗せて目を閉じた男は無防備に脱力して青年に身を任せた。
 寛いでいるというのに隙はない。何かおかしなことをすれば即座に跳ね起きるだろうことは明白で、思わず笑みが漏れる。
 誤魔化すように桶を引き寄せ、丁寧に髪を洗って。
 温まった筋肉の解れ具合を確認しながら全身を揉み解すと、仕上げに昨晩よりも少し多めの香油を塗れば完了だ。本日は風が出ているため、香りはそれに乗って観客によく届くだろう。
「服はこれを。あとは多少ではあるが装飾品代わりの防具を用意した。合うといいんだが……」
 順に渡せば男は迷うことなく身につけていく。
 小手のようにして付けるものだけは手伝ったが、それ以外は一人でなんとかしてしまった。手慣れているのは最前線にいた戦士故だろうか。
「なるべく邪魔にならなそうなものを選んだつもりだが、問題があれば適宜外してくれ」
「いや、よく考えられている」
 問題ない、と。拳を握ってみたり脚を上げてみたりしていた男の背に回り、仕上げとばかりにその長い髪を後ろで結ぶ。金の髪留めを滑らせて留めれば、戦闘中に邪魔になることもないだろう。
「私はいつも入場口の傍で見ている。今回は初戦なので無理だが、場合によっては予備の武器を供給できる場合があるので、気に留めておいてくれ」
 頷いた男が立て掛けてあった槍を手に取ったのを見届けて、では行こうかと先に立った。
 歩きながら簡単な説明をする。
「ここは地方の小さな闘技場なので、中央のような派手な設備はなくてね。いざという時には住民達の避難場所にするため外観はしっかりしているが、地面が動いたり、火で囲ったりするような仕組みはないので安心してほしい。ただ、相手に関しては魔獣になる」
 捕獲できる範囲の魔獣になるため超大型のものはいないが、代わりに複数になることはある。
 今回の相手は知らないが、久しぶりの開催ということもあり、試合時間を引き伸ばそうとする可能性が高いことだけは警告した。
 どれだけ数が出てこようと全て倒せばいいだけだと告げた狂王からは当然のことだと思っている事実しか読み取れない。
 そう長い距離ではない道のりはすぐに尽きた。
 格子が嵌められた門の前。眼前には円形の何もない空間が広がり、向かい側の壁には同じような門が見て取れる。
 ざわざわと騒がしい声は頭上から。見えずともだいぶ観客が集まっているらしいことは判断できて少し驚いた。移送が日中だったことと、あえて開放型の荷台にして男の姿を隠さなかったため、興味を持った者が大勢いたのだろう。
 開始宣言が響き渡り、門が開く。
 無言のまま、余裕の足取りで中心部に向かう男を見送り、青年は再度降りた格子越しに目を見開いた。
 地面を打つ石突の音は敷き詰められた砂に吸われて響かない。観客の声は男が見据える反対側の門が開くあたりで一層大きくなった。
 姿を見せた影は思っていたよりは大きくない。ただし一つでは終わらず、ぞろりと並んだ数は九。
「狼……しかも群れか」
 じりじりと包囲する態勢になっている狼達を見たまま男は動かない。歓声が徐々に困惑の騒めきに姿を変えていき、堪えきれずに誰かが怒号を上げた瞬間、状況が動いた。
 僅かな時間差で一斉に飛びかかる狼達の先陣を迷うことなく一突き。穂先をめり込ませたまま次の狼を力任せに払えば、ぎゃうんと声が上がり、首があらぬ方向を向いて吹っ飛ばされた。
 続けて回転させるように振った石突きをめり込ませ骨ごと粉砕。勢いで振り落とした最初の狼を牽制弾として使いながら次手を地面に叩きつけるように絡め落とし、体勢を立て直す。
 一度に四体を仕留めた男は息も上がっておらず、一瞬の出来事に驚いた観客も静まり返って、風の音だけがひゅうと細く響いた。
 じり。狼の方も一度離れたので仕切り直しといったところ。
「……ッ」
 思わず近くの壁に縋って膝を付くことは免れた青年は集中し直して魔力を込める。
 力の入れ方と構造の関係上、突きならばリスクは低いが払いは柄の強度が如実に出る。
 流石にあと五匹を残して武器を手放させるわけにはいかず、目視する限りで負荷が強い部分を意識しながら魔力による修復を試みた。
 青年の口端に笑みが乗る。
「顔だけでなく勘もいいとは……まったく」
 男は構えているだけで明らかに槍のダメージが回復したのに気付いた。
 最初の牽制で相手を制して突き主体に切り替えるつもりだったらしい足運びが明らかに変わっている。
 刺し、払い、時には派手に見えるよう大ぶりに振って牽制し、風を切る音を響かせて誘うように穂先を揺らす。
 狼程度なら群れでも相手にならないと言わんばかりの態度だが、追加の魔力で槍を維持する青年だけは武器の限界が近いと知っていた。
 残りは二頭。立ち位置を変えた男が明らかに青年に視線を送りながら飛びかかってきた一頭に槍を咥えさせて受け止める。
 視線の意味を十分に理解できたわけではないが、青年は無理に槍を維持していた魔力を手放した。即座に亀裂が入った槍を持ち替え完全に折れると同時に爪を避けながら折れた先を狼の口の中に突き込む。
 残る一匹は先がなくなった槍で牽制しておいてから回り込み、締め落とすことで決着とした。
 一瞬の静寂。続けて大歓声が闘技場を揺るがす。
 どうやら自分の行動は当たりだったらしい。壁に凭れたままで苦笑を落とす。
 男は興味がないように見えて観客の沸かせ方を知っているらしい。彼が最初に宣言した通り、使えるものならなんでも使うということなのだろう。
「おつかれさま」
 十分に喝采を浴びた後、戻ってくるまでの間に呼吸を整えて出迎えたアーチャーに対し、男は呼吸を弾ませることもなく落ち着いている。
 これではどちらが試合をしていたのかわからないなと思うものの、お互い言葉にはしなかった。

(中略)

「少し失礼するよ」
 見た目はあまり良くないが一番楽な方法として寝台上に乗り上げ、男の体を跨ぐようにして膝を付いた。香油を足した手で胸元から腹までに触れる。
 本当に美しい体だと思う。
 瞬時に距離を詰め、一撃で獲物を仕留める。獣のような敏捷性を発揮するための無駄のない筋肉。
 それが、くくっと震えた。
「テメェにも塗ってやろうか」
「……君も冗談を言うんだな」
「冗談のつもりはねぇんだがな」
 口端を上げた男の態度は明らかに冗談だと告げているのに、言葉ではそうではないと否定する。
 とぷり。
 追加の香油を掌で受けたところで腕を引かれ、男の上に倒れ込む。零れたそれが腹の間でくちゅりと声を上げた。
「危ないだろ……ぅん、う」
 抗議は唇を塞ぐことで封じられた。
 誘うような動きの舌に負けじと自ら深く絡ませ、やわと噛んで吸い上げる。
 腹の間の香油が滑り、挟まれていた青年の陰茎もゆるく刺激されたことで芯をもつ。滑った拍子に尻に当たったのはおそらく狂王の熱の先だ。
 普通にマッサージをしてた時には兆していなかったはずなので、興奮の材料など一つしかない。
 試す価値はあるだろう。制止されたならばその時点でやめればいい。
 腹の間に指を潜ませて香油を掬う。
 たっぷりと全体に絡ませてから自らの後孔に指を伸ばし、そっとひらく。
「……ッ、あ」
 油の滑りに助けられて指は簡単に沈み込んだ。
 くちゅくちゅと音を立てながら窄まりを広げ、もう片方の手では緩く勃ち上がっている男の前にも香油を塗り広げる。
 しっかりと馴染ませるように手を添えたまま何度か擦り付けて。軽く身を起こしながら腰を落とし、緩めた場所にぐぷりと先端を呑み込ませた。
「は……っ、ア」
「無茶をする」
「そう、でも……ないさ」
 以前から少し考えていた、と。一度動きを止めて馴染むのを待ちながら笑みを落とす。
 腹の間で香油まみれになっていた青年の前からは身を起こしたことも手伝って、とろりと側面を伝った油が会陰へと流れて。はたりはたりと狂王の猛りの根本へと涎のようにいくつもの雫が落ちた。
「口吸いによる効率は頭打ちだろう。かといって最初のように口淫するとしばらく私の舌が使い物にならなくなる」
 ならば口以外から精液を摂取すればいいと結論付けて少しずつ慣らした。
 見た目が良い奴隷に手をだす主人は少なくない。
 その対象は女性に限らず、男性も含まれた。
 特に美少年へのそれは権力を握る者ほど嗜む傾向にあるが、神話における神々が好んだ話を聞くからかもしれない。
「可愛げなどないので、私はそういった意味で手を出されたことはないが、同僚になった者などから話は聞くので知識はある。予想よりきついが……おそらく流血沙汰にはなるまいよ」
 ぐ、と。腰を落とせばその分潜り込んだ先端が隘路を押し広げる。
 息も絶え絶えになりながら限界まで潜り込ませては少し抜いてを繰り返し、時間をかけて奥まで。
 流石に全部は入り切らなかったが、無理をするなと再度諭されて動きを止めた。
 求められるまま体を倒し、相手の腹筋に己の熱を擦り付けて。同時に前後に揺するように小刻みに動く。
 引き伸ばされた香油を纏った狂王の手が胸を辿り、控えめに存在していた尖りを撫でた。
 ぬるり、ぬるり。掌全体で寄せるように胸を揉まれれば、ぬるつく肌を行き来する指が勃ちあがってきた乳頭を弾く。
「ア、ッ!」
 思わず声を上げたのに気を良くしたか。幾度も弾くように刺激されて体を震わせることになった。
 そのまま腹から脇、背中へと動いた男の手から逃げるようにアーチャーは身を起こす。安堵でほどよく力が抜けていた体はもう無理だと思っていたよりも先へと、男のものを咥え込んだ。
 腹を内側から押されているような圧迫感。押し出された白濁がとろりと溢れる。
「ひぅ……っ、ア!」
「そのまま乗っておけ」
 軽く膝を立てた狂王が脚の付け根を鷲掴んで腰を動かす。固い石の上ではかなり無理のある動作だが、男は無意識に逃げようとするアーチャーの体を押し留めながら何度もその身体を揺すり上げた。
 激しい動きではないが、奥に横たわる襞が振動を受けることで次第に緩んでいく。
 青年の唇は閉じることを忘れ、引き攣れた息と押し殺した喘ぎを散らした。
 汗ばむほど上がった体温に炙られた香油の香りが浴室内を満たしていて酔いそうになる。
 初めてのはずなのに当然かのように馴染む男の欲が緩んだ内壁を掻き回して。押し付けながら執拗に奥を叩き、張り出した襞を越えようと蠢く。