華胥之夢

「何を拗ねているんだ」
「拗ねてねぇよ。脱力しただけだっつーの。おまえさん、そいつらはオレと別に思考するがオレ自身でもあるってこと、忘れてるだろ」
「忘れてはいないさ。好きだろう、君も」
 わしゃり。犬達と同じように頭を撫でられてごろりと転がる。大の男相手には不似合いな行為ではあるが、今更侮られているなどとも思わない。
 好きにさせるのは青年がその行為を好んでいると知っているからだ。
 丸いベッドの形状では吊られているいるロープの間から足がはみ出してしまうがそれはそれ。
「キャスター?」
 今は闇色を溶かしている鋼と至近で見つめ合こと数秒。先に口を開いたのは弓兵のほうであった。
「来いよ、アーチャー」
「……それは男二人が乗っても大丈夫なものなのか?」
 密かに色を乗せた誘いの言葉の返事としては落第と言える問いに思わず吹き出す。
「問題ねぇよ。広さはともかく、耐荷重的には五人は余裕で乗れる」
 魔術で強化されているからとの言にロープを握ったまま沈黙していた青年はおそるおそるといった体で乗ってきた。なんとなく猫のようだと思う。
「結構不安定なんだな。ああ、でも乗ってしまえばそうでもないか」
「この揺れが仕事漬けで不眠になった体にイイんだとよ。まあ、わからんでもないがね」
 ゆりかご効果ってやつだという男の指摘は肯定で返され、クッションの間に埋まった青年は深く息を吐いた。
 男も転がって端から少しだけ中央に戻り、クッションのひとつを抱えるようにしながら肘をつく。
 二人分の脱力と安堵の気配が満ちたのを見届けてから、犬達は闇に溶けていった。
「……彼らはいいのか?」
「ああ。たまに夜ここにくるのはあいつらのためだ。昼間じゃ誰かを驚かせるだろ」
 何をしているのだという問いには息抜きだと答えるほかない。
「オレらも長いこと現界してると人間達の生活に引き摺られるだろ。それと似たようなもんだ」
 己の魔力を分けた存在であると同時に独立した思考を持つ犬達がその姿形に引き摺られるが故の行動なのだと語る。
 しばらく好きにさせてやってくれと結んでからすでに眠気に足を絡め取られている青年の前髪を掻き回してやった。
「なんだ、ずいぶん消耗してんな。キャンプで羽根伸ばせたんじゃなかったのか?」
 確か槍持ちと釣り勝負をしていたのではなかったか。問いに対し、半分眠りの海に沈んでいる青年は気持ちよさそうに目を細める。
 思わず口元を綻ばせた男は、やはり猫のようだとは告げず、そのままゆると眉間を辿った。
 眠いなら寝てもいいぞと告げる声は、ささやかな水音にさえ溶けるほど静かに鼓膜を震わせる。
 嫌だとむずがる仕草をした青年はゆると瞳を伏せたまま。
 彷徨った手が零れていた男の髪を引き寄せた。
「うん?」
「……現実がどんなに地獄だろうが、オレはこのままがいい」
 あまりにも穏やかに告げられた言葉に目を見開いた男の先で、深く呼気を吐き出した青年はどこか幸せそうに笑う。
 僅かに目の端が揺れたことで泣きそうだと思ったのは気のせいだろうか。
「アレもその現実の一部だろ」
「そうだな。だが、自分の立場も忘れてはしゃぐなど……」
「そうじゃねぇってのは言っても無駄か。オラ、とっととあの時の霊衣に着替えろよ。どんなもんか見てやる」
 気持ちよく眠りの淵に入りかけていた意識を叩き起こす言葉を投げつけて男は笑う。
 幸福に背を向け、快楽に目を瞑り、傷だらけになりながら険しい道だけを歩もうとする在り方を今更どうこう言うつもりはなく、また助けてやるつもりもない。
 それは侮辱だ。目の前の存在はそれを貫いたが故に成った形だからこそ、やり方がどれだけ気に食わずとも戦士として認めるに値する。
 慌てて意識を覚醒に引き揚げた青年がそんな必要はないだろうと抵抗するのを予想して、逃さないとばかりにのしかかった。
「フィッシング同好会所属の大学の先輩……だったか?」
「なぜそれを……というか君はあの場に居なかっただろう!」
「見てなくとも噂はアレコレ聞いてるぜ?」
 スカサハに調整してもらったのなら、なにか特殊なルーンでもかけられているのではないかと疑ったことはないのかと告げた男に負けて、わかったから少し離れてくれと告げたエミヤは一瞬の躊躇の後で大人しく霊衣を変更した。
 精一杯の抵抗としてサングラスを選択した彼の目元が隠される。
 ぎし。手を伸ばした男の移動につられるようにベッドが揺れて。気を取られた青年の目元を覆っていたそれは魔術師の手の中。
 しばらくはためつすがめつしていた男だが、流石に暗すぎるなと音を上げた。
「薄くなら明かりをつけても構わんか?」
「……キャンプ場ならともかく、カルデアでこの格好なのは恥ずかしいのだが」
「おう。だから抵抗が少なそうな場所を選んでやっただろ」
 言われてみれば確かに。
 緑の中のハンギングベッドという状況は、カルデアの一部であることを忘れさせてくれる。元々職員達が仕事を忘れてリラックスするための施設なのだからそれも当然だろう。
「きみ、さっきは犬達のためだと言ってなかったか?」
「それも本当だぜ。で、どうなんだ?」
 質問に質問で返すのは話を逸らしたい相手を逃さないため。その手にはのらないとばかりにさらに質問を被せる男と青年は睨み合って、結局弓兵の方が折れた。
 わかったから好きにしてくれ。目元を片手の甲で隠しながらの発言に応と頷いて、普通の人間ならば暗すぎるくらいの明かりを灯す。
 ころり、ころ。
 球形のそれらは男の手から転がって、やがてふわりと宙に浮いた。
 溜息にも似た感嘆は弓兵の口から。手元と浮いた明かりを見比べた男が首を傾げる。
「こんなの、そこそこ見慣れてるだろ」
「浮いているのはよく見るが、つくるところを見る機会はあまりないんだ。貴重な体験をしたな」
 表情を緩ませて浮いた球に手を伸ばそうとするのをクッションの間に埋めるように縫い留めて、今はうっすらと明かりを弾く鋼を見下ろす。そこから視線をずらして纏った服へ。
 動作に支障がないようにと大きく開いた肩から脇のあたりは変わらないが、普段は隠されている首元が露出しているため、どこか警戒が緩んでいるようにも感じられる。
 指先にちりとぶつかるのは、普段の彼であれば選ばなさそうな三連のブレスレット。
 意外だなと声が零れた。
「何がだ?」
「あー……大したことじゃないんだが。おまえさんが腕に付けるなら、あの竜殺しのセイバーみたいに時計を選ぶと思ったんだよ」
 そのあたりの希望は伝えなかったのかと問えば無言のまま視線が泳ぐ。ブレスレットの間を擽るように爪の先で触れればひくりと反応して視線が険しくなった。
 ほんの少し。弱い護符程度ではあるが、守りの力を感じる。
 古来から装飾品は身を飾るのと同じくらい魔除けや幸運のお守りの役割を果たしていた。そういう意味では、対魔力が低いこの青年にとって腕時計よりも守りの力との親和性が高いそれらを選択する意味はあるのだろう。
「以前、魔のものへの牽制と称して腕輪を貸してくれたことがあっただろう。普段の礼装を脱いで長期間活動するという状況だったからか、それを思い出したんだ。スカサハ殿に調整してもらうにも都合がいいと、思って……」
「もしかしてこの霊衣、大元を用意したのはおまえさん自身か?」
 言うな、と。
 絞り出したような声が指摘を遮ろうとしたが、意に介さない男はそのまま言い切ってしまう。
 返答は背けられ、クッションに埋められた顔と染まった耳元。だが、そんな反応をせずともよかったのだ。元より揶揄うつもりもない。
「なるほどな。それで納得がいったぜ。最初見たときからうっすらと守りの気配があるのが疑問だったんだ。師匠はその辺を気にするようなことはしねぇからな」
 冷静な声に助けられたか。僅かに首の向きを戻した青年の片目がクッションの間から覗く。
「どういう、ことだ?」
「その前に確認するが、おまえさん、その霊衣の大元は投影で用意したのか?」
「……そうだ。時代は現代日本、さらには夏の山でのキャンプになるとは聞いていたからな。野外でも活動しやすく、かつあまり流行り廃りがなく無難なものを、と」
 アウトドアミリタリー系を参考にしたと続けられた言葉を適当に聞き流しながら改めて全体を精査する。己の師匠はかなりの鬼教官だが、同時に願いを汲み取る術に長けていることを知っていた。
 注意して視れば、エミヤ自身が用意した服装は、無意識下の願いを編み込んでいることがわかる。
 堅いことは抜きにして、気楽な友人のように振る舞えるように。
 引率を任された者として気を抜きすぎないように。
 そんな暗示にも似た願いの中に、もしかしたらというさらに曖昧な願いが混じっていた。
 なるほど、と思う。彼自身が口にした大学の先輩というのは、普段遊びが少なく小言も多い保護者キャラである彼が、今回の間くらいは友人同士のキャンプのようにマスターが楽しむことができるようにという願いの発露だ。
 実際、他の者から話を聞く限り、そこそこ楽しんでいたらしい。本人の思いは別として。
「やはりなにか?」
「いんや。特におかしなことはなんもねぇな。元を用意したのがおまえさんなら魔術的な要素は皆無だろうし……ああ、だが」
 腕輪を選んだのは正解だと、クッションの波間に埋もれていた腕を救出して唇を触れさせる。息を呑んだ青年に対し、最初に感じていた守りの力の元はここだと教えてやった。
「っても、本当に魔除けのお守り程度だがな」
 それはいつもと変わらないのではないかという指摘には己の意識とは別口で存在しているということが重要だろうと笑って返す。
 言ってみれば鈍く光る銀の細い輪一つ。だが確かに、いつかの特異点で礼装を脱がざるを得なかった彼に渡した己の腕輪と同じ匂いを纏っていた。
 彼自身がそうであればいいと願った守りの形だとは告げずにうろと視線を彷徨わせる。最終的には天を仰ぐようにしばらくベッドを支えている梁を眺めてから、徐に己の状態を申告した。
「なあ、アーチャー。勃ったわ」
「どこにそんな要素があった!?」
 暗にマーキングされたかったのだと言っておいてその反応はないだろう。どの道、弓兵の体は男の腕に囲われた形で横たわっている。問答無用で距離を詰めて体温を重ね、相手の大腿に己の欲を擦り付ければ、誤解もなく興奮していることは伝わった。
「こんなところで……さらに大きくするんじゃない!」
「誰も来ねぇよ。入り口に猛犬注意の張り紙をしておいたからな」
 信じる信じないは勝手だが、実際似たようなことはしてあるのだ。
 元は犬達のためなのだが、そこまで告げてやる義理はない。
 それを君が言うのか。笑った青年が仕方ないと脱力してベッドに沈む。
「猛犬さんの縄張りに入った者はさしずめ君の餌か?」
「オレが食べるのは肉じゃねぇけどな。むしろ食うのはオマエのほうだろ?」
 ココで。
 するりと撫でた腹の上で指を跳ねさせながら指摘すれば、オヤジくさいと軽く殴られる。
 続けて盛大な溜息が落ちるが、端には笑いが滲んでいた。
 珍しく注文をつけてもいいかと問われて頷く。
「今日は全部食べさせてくれ」
「……ッ!」
 普段ならば絶対に口にしない注文に即座に腰が重くなる。噛み付くような口付けで応えれば、絡んだ舌が宥めるようにゆると歯茎をなぞった。
「そ、んなに……がっつかなくとも……逃げはしない……ぅん……ッ」
「うっせぇわ。アレで煽られなかったら男じゃねぇ」
「それはよかった。引かれたらどうしようかと……って、待ってくれ!」
 性急にタンクトップを捲り上げようと動く手を押し留められ、ぐると唸りを上げた男に対し、場所を交代してくれと告げる。
「その……ここには何もないだろう。できれば先に濡らしておきたいんだが……」
 積極的な言葉とは裏腹に泳いだ視線が青年の逡巡を雄弁に物語る。それは反則だろうと頭を抱えながらも、場所の交代に応じた。
「その代わりテメェは下を脱げよ。それで対等だろ」
「む。確かに……仕方ないな」
 身を引いたキャスターに合わせて起き上がった青年は少しだけ端に寄ってから、靴を、続けて下衣を引き抜いて地面に落とす。
 こういうところばかり思い切りがいいのはいいのか悪いのか。一部始終を積んだクッションに凭れて眺めながら苦笑を落とした。
「……君も少しは脱いだらどうなんだ」
「そうさなぁ。まあ、オレはその気になれば消せるから構わんだろ」
 潔く下半身を晒した青年は膝立ちで移動しながら抗議する。男の目の前まで来た彼はなぜか正座で眉を寄せた。
 不公平じゃないかと続けられた言葉に口角を上げて、せめてとばかりに長手袋だけは引き抜いて投げ捨ててやる。
「これ以上はオアズケの礼にテメェが好きに脱がせていいことにする、ってことでどうだ」
「それは嫌がらせというんだ。まったく……」
 文句を言いながらも体を寄せた弓兵はそっと鎖骨のあたりに唇を触れさせた。インナーの上を滑った指が臍の窪みで遊んで腰紐を引く。
 求められたと判断して消してやれば笑いの振動と吐息が肌を擽った。
 確かにこれはこれでいいかもしれないと嘯いて、緩んだ下衣へと手を差し入れる。
「アーチャー」
「ん……」
 声の響きで求めていることを察した青年はかしりと一度鎖骨を甘噛みしてから顔を上げ、伸ばした舌同士を触れさせて擦り合わせた。尖らせた先を縁に滑らせて唇の端をつつき、抵抗せず侵入を許した舌先を軽く噛みながら喉奥で笑う。
 ゆるく唇を合わせたまま手探りですっかり勃ち上がったものを取り出した青年は形を確かめるようにそっと包み込んで双珠から先端までを撫で上げた。
 興奮を隠さない息が零れる。
 キャスター。囁きを舌先で転がして絡めた舌が逃げていく。繋がっていた唾液が切れて零れ落ちたのを追って舐め上げると、そのまま脚の間に顔を沈めた。
 先端に吐息が触れ、舌先が触れる。
 丁寧に唾液を絡めるように動く舌が張り出しを擽り、押し潰された水音が青年の口内に吸われて。裏筋を刺激する指が不規則に下ってはやわやわと双珠を揉み込む。
 直接的な刺激を楽しみながら、男は自らの指を唾液で濡らした。逆の腕を伸ばして腰を上げるように促し、閉じた後孔に先を這わせる。
 ひくりと反応したそこが先端を喰んだのに気を良くし、そのまま少しだけ奥へ。
「……ッ!」
 応じるように熱が集まった先端を強く吸われて息を呑む。笑いの気配。
 何度か言い聞かせたこともあり無理矢理喉の奥まで入れようとしなくなったが、やはり小さい口には余るらしく、目一杯頬張ってなお足りずにてのひらと指とを駆使しながら流れ落ちた唾液を塗り広げていく。
 男の指を喰んだ場所が行為に合わせて物欲しそうに蠢いた。
「上手くなったなぁ」
「……っ、は……誰の、せいだと!」
 一度口を離して文句を零すのも想定済み。もういいだろうと青年の体を引けば、抵抗する気もないらしい体は脚を跨いで腕の中に落ちた。
「自分の大きを考えてから言ってくれないか」
「大丈夫だろ。やわらかかったし」
 自分でしたのか。ただの確認とも揶揄ともとれる囁きへの返礼として、すっかりその気になって準備万端なものを荒く握られて息を詰める。
 荒い行動をとった割に、そうではないがと律儀に応えた青年は男の熱の先を自ら後孔へ導きながら喘ぐように息を吐き出した。
「こんな夜中に呼ばれて、何も準備してこないとでも?」
「……準備の方向性が間違ってると、オレぁ思うんだが」
 もう何度体を重ねたと思っているのか。男はそれが語りであると瞬時に見抜いた。そもそも柔らかいとの言葉も、事実ではあるが受け入れるには不足であるとわかっている。
 体勢の都合上、見上げた弓兵の背後に灯された光が揺れて、ほぼ白に近いその髪の輪郭を淡く浮かび上がらせた。
「そんな時間はなかっただろ。煽るつもりならもっとマシな言い訳を用意しろよ」
「おや、それでは言い換えようか、クー・フーリン」
 すりと尻の間で欲を扱くように動かして。唇の隙間からちろりと舌が顔を出す。
 とろりと絡むのは、ないと言われたはずの潤滑剤。
「そういう気分なんだ。呼ばれなければオレのほうから訪ねていたよ」
 今の今に準備してきたとは言っていないと悪戯が成功した子供のように笑って、多少でも濡らせば大丈夫だろうと、ゆるく息を零しながら先を宛がう。
 潜り込んだ先は狭いが、ぬるつく欲は然程抵抗なく呑み込まれて内壁を擦り上げた。
「ん……ッ、は……」
 それでもきついかと苦笑しながらも止めようとはしない青年の腰を支えたまま、もう片手を伸ばしてゆるく勃ち上がった彼自身の欲へと指を添わせる。
 くちゅり。触れさせた指にはすぐに先走りが絡んだ。
「ア……んぅ……オレが、動く……と」
「いいぜ。好きに動けよ」
 失敗したなと笑って、目の前で存在を主張し始めたものを見る。嫌がりそうだとわかっていても、好きにするならお互い様だとして唇を寄せた。
 唇で緩く挟んで舌を伸ばす。じゅわと滲んだ唾液で暴かれたものがざらりとした布の感触の内側で勃ち上がり、存在を主張して熱を煽っていく。
「ひ、ぅ……ッ」
「えっろ」
 反射で逃れようとする体を押し留めて。透けた頂を布越しに舐り、軽く歯を立てて転がす。
 手を封じて安心したかと言葉を投げれば、頭突きの勢いで寄せられた唇が重なった。洩れる息は荒く引き攣れて、籠り始めた熱をかき混ぜる。
 ぴちゃり、くちゅり。
 水音が闇に逃げて、紛れるように悪態が落ちた。
 唇を、舌を合わせながら軽く腰を揺すりあげれば連動して揺れるベッドが軋みを上げる。
 不安定さに視線を揺らす相手には大丈夫だと告げて、背を抱きながらそっと引き寄せた。
「キャスター?」
「ちと体勢変えるぞ」
 一度抜いて青年の体をひっくり返すと、背もたれとクッションに背を預けた状態のまま手招く。首を傾げはしたものの大人しく男の脚を跨いだ青年は半身を捻って片手を背もたれに、もう片手を男の肩に添えて座り込んだ。
 所謂後背位と側位の中間の体勢。一度ひらいた後孔はさしたる抵抗もなく少し支えておくだけで男を受け入れた。
 はふ、と。零れた息を追って唇を合わせ、自ら腰を振って中を刺激する。
 片手はしっかりと背を支えたまま、もう片手を大腿から腰へと滑らせ、タンクトップを捲り上げるように動かして露出させた胸に指をかけた。
 それが目的かと悪態をついたところでもう遅い。
 熟れた先端を弄る指は敏感になったそこを執拗に捏ね、押し潰し、時折爪の先で弾く。
 びくと身を震わせた青年は仰け反って高く鳴いた。
 唇が離れ、自由になったところで晒された胸元に舌を這わせる。片方を舌で、もう片方を布越しに指で遊びながら内壁の収縮を楽しむ男は、気持ちいいと素直な感想を落とす。
 半端に捲り上げられたインナーは青年の胸の筋肉にひっかかったままで、その白と濃色の肌の色との対比が目に楽しい。堪能していれば、ぐいと髪を引かれて痛いと零すことになった。
 腕輪とぶつかった耳飾りがかつりと笑う。
 もう少し遠慮しろと文句を零した弓兵が、息を詰めながらも自ら腰を持ち上げ、動き始める。
「なんだ、元気じゃねぇか」
「そう簡単に流されては……ん……ッ」
 寄り添うように密着したまま上下に腰を動かす青年に合わせ、男のほうも腰を包むようにしながら前に回し、動きに合わせて揺れる欲を撫で上げる。
 先走りが滴る先端から裏筋を擽り、陰嚢を柔く揉んで。腹との間で押しつぶすようにしながらひくつく全体を楽しむ。
 主導権を渡し、行動が制限される体勢での行為は物足りないが、微温湯のような快楽は悪くない。
「そんなんで足りんのか?」
「うる、さい! 黙って大人しくしていろ……ぁ」
 そもそも、この弓兵が自分から動くのが珍しい。悪態と共に喘ぐという器用な真似をしながら小刻みに動くうちにようやく蕩けて開いてきたそこから、熱が伝わった。
 魔力、と言い換えてもいだろう。快楽同士が繋がり、奥まで泥濘むほど全体が柔らかく熟れる。
 堪らず腰を引き寄せながら前立腺の先あたりを狙って打ち付けてやれば高い声が散った。
「待っ……ふか、あ……ッあ!」
「……ッ! やべ、もってかれるトコだったわ」
 うねる内壁が気持ちいい。
 まだ吐精はないことを確認して、内の快楽に耐える姿を盗み見る。言葉もなく痙攣しているところを見るに、軽く達したのだろう。正気に戻る前に動きを再開して快楽を長引かせれば、悲鳴に近い嬌声に合わせて内側が喰んだものを搾り取るように収縮を繰り返した。