♯LOGS2

収録作品

■槍弓
酔っ払いの戯言 2018.05.05 pixiv
炊飯器パンケーキ 2019.05.16 twitter
南瓜とリボンの色合わせ 2019.10.01 twitter ひらいて赤ブー
つきあかり 2020.01.07 twitter ひらいて赤ブー
幸運E-の流れ弾 2020.03.04 twitter ひらいて赤ブー
自粛要請 2020.05.05 twitter エアスケブ
夜の屋根 2020.08.10 twitter バースデーリク
優しくて絶倫な 2020.10.25 twitter ハロウィン
本日最初のお客様(声/歌/雨) 2021.07.04 twitter ゆみざんまい

■キャス弓
角に佇む 2018.06.27 pixiv ぐだぐだ帝都記念
くるみ割りキャスリン 2019.11.03 twitter ひらいて赤ブー
シャワー室の以下略 2020.03.07 twitter クーエミふぇす
愛でるは…… 2020.04.19 twitter エアスケブ
にゃんこのお昼寝 2020.08.09 twitter バースデーリク
オオカミの目 2020.11.23 twitter 旅行中小ネタ
Heather honey(約束/花) 2021.07.04 twitter ゆみざんまい

■狂王弓
躊躇わぬ傷を標に撫でて 2018.05.17 pixiv
もふもふ 2020.04.19 twitter エアスケブ
ピクニックの荷物 2020.07.26 twitter エアスケブ
夜明けの体温 2020.11.24 twitter 旅行中小ネタ
ジンジャーバカンス(夏/祭り) 2021.07.18 twitter ゆみざんまい

■旧槍弓
タルトひとくちぶん 2020.08.22 twitter バースデーリク
Stay a little longer(旅/嫉妬) 2021.08.01 twitter ゆみざんまい

■セタ弓
子犬のワルツ 2021.01.28 twitter アケセタンタ実装記念
ドッグバトル 2021.08.08 twitter バースデーリク
Evoke(ギャップ/色彩/思い出) 2021.09.05 PictSPACE ゆみざんまい

■クーエミ
ご主人探し 2021.12.30 書き下ろし

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本文サンプル「ご主人探し(書き下ろし)」

 もふ、と。
 いかにも柔らかな毛皮に顔を埋めた感覚に青年の意識は浮上する。
 起きたかと問うような賑やかな声に少しの違和感を覚えながら瞼を押し上げた。
 眼前に飛び込んできたのは元気よく揺れる白の尻尾。胸元にかかる圧力で己の上に乗っているのだと知れる。
「これは……一体……」
 そっと手を伸ばせばぺろりと指先を舐めていく舌の感触。その仕草に覚えがあってますます困惑する。
 思い当たるのはキャスターのクー・フーリンが連れている二匹の白い犬達だが、彼らだとしたら随分と軽く、小さい。
 手を添えて落ちないようにと気を付けながらゆっくりと身を起こせば体の上で身を捻ったらしい白い毛玉と目が合った。
 もう一度わふんと元気に鳴いたそれは明らかに子犬サイズ。どことなく似ている気はするもののキャスターの連れている犬達ではないらしいと判断する。
「……どこから迷い込んできたんだね?」
 問いかけたところで答えなど返るはずもない。
 首を傾げた子犬に苦笑して、少しだけ待っていてくれと告げて寝台から起き上がった。
 大人しくその場に止まっている毛玉はふすんと鼻を鳴らして青年が寝ていたはずの場所を嗅ぎ回っている。
 なにか気になるものでもあるのだろうかと思っても明確な答えを得る手段はなく、苦笑を浮かべたままの青年は身支度を整えたところで子犬に手を差し出した。
「さて、では君の主人を探しに行こうか」
 わふん。
 元気の良い返事とともにシーツを蹴った子犬が腕の中に飛び込み、受け止めた青年は慣れているなと笑う。
 ぱたりと振られた尻尾が準備完了を告げて一人と一匹は部屋を後にした。
 まず訪れたのは管制室。
 ダ・ヴィンチは青年の腕に抱えた子犬に目を丸くしながらも笑って必要だと思われる情報にアクセスし、首を傾げた。
「おやぁ。キャスターのクー・フーリンの居所が掴めないねぇ。カルデア内に居るのは間違いないみたいなんだけど……」
「ふむ……この子の出現となにか関係があるのだろうか」
 同じように首を傾げたエミヤになんとも言えないと返して、絶世の美女の姿をした天才芸術家は、他のクー・フーリンの居所ならわかるからそちらをまずはあたってみたらどうかと提案する。
 同じ存在である彼らが知っていることもあるかもしれないし、もしキャスターの犬達が主人の元を離れて彼らのうちの誰かといるのならそれだけで十分な手掛かりとなり得る。
 頷いた青年はそれぞれの居場所を確認して礼を告げると、子犬を抱えたまま歩き出した。
 クー・フーリン探しの最初は地下菜園。
 いつも通り何人かのサーヴァントとともに畑仕事に精を出していたらしいランサークラスのクー・フーリンは、エミヤの腕に抱かれた子犬を目にして要件を悟ったのか、休憩場所になっている一角を示してから周りの面々に声をかけた。
「ちと抜けるからここも頼む」
「了解です、御子殿。お任せを」
 爽やかな応えには敬愛が滲む。
 申し送りの会話を聞き流しながら移動した先でランサーを待った。さほど待つこともなく駆け寄ってきた男は、何があったと声を上げる。
「この子はなんだ、という聞き方ではないのだな」
「あー……そりゃぁな。気配でなんとなくクー・フーリン絡みだってのはわかるし」
 子犬を覗き込んだ男が威嚇されて苦笑を零し、青年もつられて笑う。
「聞かれても特に答えらることがない……というのが申し訳ないところなのだが、起きたら部屋にいたんだ。同じような犬を連れているキャスターのクー・フーリンなら何か知っているかと思ったのだが見つからなくてな」
 胸の上に乗っていたことは特段隠すようなことではないのだが、なんとなく話が拗れる気配がして、事実ではあるが正確ではない言葉を口にする。
 納得したのかしていないのか。
 首を傾げながらふむと唸って、男は再度子犬と見つめ合った。
 吠えられても動じずに、少しだけ目を眇めてルーンの光を灯す。
「……ッてぇ! 弾かれた」
「大丈夫か?」
「静電気みたいなモンだ、気にせんでいい。とりあえずわかったことはコイツはこの世界線の存在じゃねぇってことくらいか」
 一度目を伏せて息を吐き、慣れないことはするもんじゃないなと口角を上げた男が青年と視線を合わせた。予想の範囲から大きく外れてはいなかった言葉に動じることもなかった青年はただ頷いて、可能であれば主人の元に帰してやりたいのだがと口にする。
「そうさな……とりあえずおまえさんの見立て通り杖持ちが一番確率が高いだろうが、どいつが縁になってるかわからんから一旦全員集めるか。確か犬どもが若いほうと一緒だったはずだ。そいつらに頼れば杖持ちも案外早く見つかるかもしれん」
 自分が場を整えておくからとりあえずオルタとプロトの二人を呼びにいって欲しいと告げられたエミヤは首肯する。
「そんじゃ、後で温室の奥に集合な」
「承知した」
 指定された場所はこのノウム・カルデアにおいてキャスターのクー・フーリンが工房としている場所だ。どのみち全員を訪ねるつもりであった青年に文句があるはずもなく、現在位置から行きやすい方という単純な理由でオルタのクー・フーリンの元を訪ねた。
 地下図書館の一角。
 誰も来ないような奥まった場所で蹲り、目を閉じている男に控えめに声を掛ける。
 帰ってきたのはどこに向かえばいいのかという問いだ。
「温室の奥に……」
「ああ……ヤツの工房か。了解した」
 何も聞かずにいいのかと返したエミヤの前で立ち上がった男は必要だというなら従うだけだと告げて。青年の腕の中にいる子犬を一瞥するとそのまま去っていく。
 視線が合ったのは一瞬だろうが、その意味を正確に捉え、身を震わせた子犬が、きゅうとだけ鳴いて顔を伏せた。
「どうした……ああ、本能的に怖かったのか」
 オルタの姿が見えなくなったことを確認してから大丈夫だと声をかける。
 あんな状態での現界だが意外と彼は優しいのだと笑うエミヤはわざわざ睨んでいった男の意図に気付かず、次は若い方に会いに行こうと続けた。
 図書館を後にし、足を向けた先はサーヴァント達とともに現界し、彼ら彼女らを騎乗させる馬や幻想種が待機しているエリアだ。
 魔術によって拡張されているそこには広い運動場が備え付けられている。
 遠くから聞こえたわふんという声に腕の中の毛玉が反応し、続いて青年も振り返って駆け寄ってくる犬と男に笑みを向けた。
 走り回る犬が二匹……と言いたいところだが数が足りない。
「エミヤじゃねぇか。どうした?」
「ああ、行き違いにならなくてよかった。ところで一緒にいるのは一匹だけなのか?」
「あー……なんか知らんがもう一匹は途中でどっかいっちまったんだよ。杖持ちが呼び戻したのかと思ったがアンタの様子を見るとそういうことじゃなさそうだな」
 自分と犬のどちらを呼びにきたのかを問われて苦笑とともに両方だと答えた青年は、温室の奥まで一緒に来てくれるかと誘いの言葉を口にする。
「アンタその言い方……いやいいけどよ」
「何か問題があっただろうか」
 首を傾げる青年だけが問題をわかっておらず、なぜか悲壮な連帯感を漂わせた犬二匹と歳若いクー・フーリンはそれぞれ溜息にも似た音を零した。
 疑問符を飛ばす背を押すようにして歩き出した彼らは無言のままでいつもと変わらない温室の入り口へと辿り着く。
 躊躇うことなく奥まで進み、キャスターのクー・フーリンが工房と定めた場所へと踏み込んだ。
「おう、来たな」
 出迎えたオルタとランサーに挟まれてどこか不確かな小さい影がひとつ。その傍にはどこかに行ったと思われていたもう一匹の犬が寄り添っていた。
「あ、アンタ。エミヤだよな!」
「……私を知っているのか」
 隣に立つ人物とあまりにも雰囲気が似通っているため、名乗られずとも存在を認識できてしまう少年だが、初対面のはずである。僅かに警戒の色を纏った青年の声にあーと声を上げて、驚かせたなら悪かったと律儀な謝罪が続いた。
 ちらりとランサーの方を見上げ、彼が頷いたことを確認すると、セタンタだと名乗る。
「キャスターのオレを探してんだろ? 借りてて悪いな」
「君が?」
「ああ。オレがここに来たのは事故だが、帰り道がなくならないようにってめんどくせぇ役目を担ってもらってる。あともう気付いてるかもしれないが、そいつはオレの片割れだ。連れてきてくれてありがとな」
 わふ。再会した喜びからか抱き抱えている青年を攻撃するかの勢いで尾を振る子犬にエミヤも警戒を弛めた。
 姿勢を低くして落ちない程度に腕の力を抜いたものの、子犬が降りる気配はない。
 どうしたと首を傾げるエミヤにちょっと待ってくれなと笑った少年の表情には疲労が滲んでいた。
「確かに助けてくれるヤツを探してくれとは言ったけど、成長したオレとかじゃなくてアンタのとこに行ったのがらしいっちゃらしいか」
「助けを求めていたのか?」
「おう。自分の意思でどうにかなるものじゃないとはいえ、ここはオレのいるカルデアじゃない。こいつを助けるって決めたマスターがいる以上、サーヴァントとしてはどんな手段を使っても戻らなきゃ、だろ?」
 存在は揺らいでおり、見たところ魔力も残り少ない。魔力不足の不調は全身を蝕むだろうに、少年はなお快活に笑ってみせた。
「そりゃ当然だな。チビ犬のくせにしっかりクー・フーリンじゃねぇか」
「うるせぇぞ成長したオレ! 確かにセタンタを名乗ったが、この霊基は修行時代終了直前なんだからな!!」
 そいつは初耳だとの言葉はランサーではなく歳若い方から。
「するってーとどっちかというと俺に近いのか」
 槍は無いけどな。代わりに剣があるさ。
 そんな言い合いはどことなくほのぼのとしている。
 そんななか、どこか遠くからどちらも持っていない自分に喧嘩を売っているのかと不機嫌そうな声がした。
「向こうの準備もできたみてーだぞ。チビ犬」
「そうみたいだな。世話になった」
 二度と迷いこんでくるな。オレのせいじゃない。歳若いのと同様にランサーに対しても似たようなやりとりをして。限界なんだからこれ以上疲れさせるなと零した少年はエミヤの腕に抱かれたままの子犬に手を伸ばす。
「来いよ。あ、ちゃんと礼をしてからな?」
 わふ。
 もう一度千切れるほど尻尾を振った子犬はぐるりと身を捻ると、ぐいと背伸びしてエミヤの唇をぺろりと舐めた。
「は……?」
 理解が追いつかないうちに飛び降りた子犬はセタンタの元に駆け寄って同じように顔を、唇を舐めてじゃれている。
 やられている少年の方も嬉しそうに撫で回して一通り労ってやった後、己が凭れていた大きい犬の方に向き直った。
「アンタもありがとな」
「……ったくクソガキが。オレが状況を把握してねぇと思うなよ」
「犬がしゃべった!?」
 正確には犬の口が声に従って動いていないことから声としてではなく、念話に近い状態だと推測される。
 ちらりとエミヤを見た彼はすぐにセタンタに向き直り、いいんだなと問う。
「ああ。オレ自身は動けなかったが、こいつが見てきてくれたからな。言葉としては伝わらなくとも得るものはあるさ」
「ならいい。目ェ閉じてろ。酔うぞ」
「ああ。じゃあなエミヤ! あと未来のオレも!!」
 太陽のような、という表現が相応しい、満面の笑みを残して少年の姿は子犬と共に描き消えた。位置を交換したかのように同じ場所に座っているのは疲労の色が濃い、キャスタークラスのクー・フーリン。
「よしよし、戻ってきたな。随分と妙なことになってたじゃねぇか」
「同じ顔に言われるとなんか腹立つな」
 ぐったりと犬の片割れに身を預けた男は、からかい半分のランサーを睨みつけるが、迫力などありはしない。そんな二人の間の空気を読まず、横から問いを投げたのは珍しく口を開いたオルタだ。
「あのまま帰してよかったのか」
「さすがに対策はしたさ。その用意もあったからキツかったっつーのもある」
 本人も気付いていたようだが。
 疲労と共に周囲に溶けていく溜息は、手招かれて傍に近付いたもう一匹の犬の毛に吸われて消えていった。
「キャスター。君達だけで理解しているようだが、きちんと私にもわかるように説明してくれないか」
「説明してもいいが、どうせ忘れてもらうことになるぜ」
「どういうことだ?」
 子犬を下ろした関係で元々近いのだが、さらに近付けとのジスチャーに疑問を抱くこともなく身を寄せたエミヤをキャスター以外の三人が微妙な表情で見下ろす。
「なんだか居心地が悪いのだが……」
「気にすんな。よ、っと」
「うわっ」
 悲鳴は聞き流されて、ひっくり返された体はキャスターの腕の中。
 主人と息を合わせるようにさりげなくエミヤの体を返す手助けをした犬の片割れが拘束役の半分を担って、ちょんと太腿の上に足先を揃える。
 どういうつもりだと問う声は氷点下。
 特に気にした様子もない男は抱き込んだ体に額を懐かせた。
「おまえさん、随分とチビ犬にマーキングされたなぁ」
「そんなものされていない。ええい、離せ!」
「諦めな、弓兵。今のこの場にアレとの縁は許容できんからな。念入りにオレらで上書きさせてもらう」
 背中から抱きつく格好になっているキャスターと大腿から下をがっちり押さえ込んでいる犬とで身動きが取れないエミヤの視界にランサーの顔が大写しになる。
 細められた焔の瞳は軽く聞こえる言葉を裏切って真剣。一瞬見惚れた青年は、声を発する余裕も与えられないまま唇を奪われた。
「……ぅ……んッ」
 一度目はランサー。
 二度目と三度目はオルタだったか、それとも歳若い方だったか。
 重ねるごとに曖昧になる意識は夢見心地で、暗示を受けている時のそれに近しい。
 力の抜けた体を支え直されて。そっと唇に吐息が触れた。
「槍持ちの言った通りだ。チビ犬のことは忘れろ、弓兵」
「きゃ、すた……」
 おやすみ。
 囁きを舌先で喉奥まで押し込まれて、青年の意識は闇に落ちていった。

 もふ、と。
 いかにも柔らかな毛皮に顔を埋めた感覚に青年の意識は浮上する。
 起きたかと問うような賑やかな声に少しの違和感を覚えながら瞼を押し上げた。
 覚醒しきらぬままの顔を、唇をぺろりと舐めていく舌の感触。ゆっくりと身を起こせば、のしかかっていたいたらしい半身をずらしてくれた白い毛玉と目が合った。
 わふんと元気よく上げられた声に表情が緩む。
「おはよう。また潜り込んできたのかね、仕方のない子だ」
 よく発する問い。
 返事があるはずもないが、代わりに伏せた毛並みを撫でてやってから起き上がる。
 さて、今日は何をするのだったか。
「どうにも……まだ寝ぼけているのかもしれないな」
 少し散歩でもして頭を起こしたほうがいいだろうか。頭を軽く振って身支度を整えた弓兵はおいでと犬に声をかけて部屋を後にした。