ポラロイド

少しだけ伸びた髪と。
少しだけやつれた表情。
どうにかしようと足掻いていた日々の、名残。
僅かに夕日の名残が差し込んで部屋全体を束の間赤く染め上げる。
ゆるりとまどろみから覚めた青年はぼんやりと部屋を眺めて数回瞬きをした。
覚醒してくる意識と記憶。
やっと自分がいる場所を知覚する。
「ようやくお目覚めか、と」
「レノさん……」
からかうような声がかかって窓辺に視線を移すと、逆光の中で赤の髪が燃えていた。
すうっと近付いた炎が目の前で揺れる。
「また眠り呆けるのかと思ったぞ、と」
口調には相変わらずからかいの色が強いものの、それだけではないことは緩やかに添えられた手が語っていた。
三年間、寝ていたのだと聞かされたのはついさっき。
同じタークスだと名乗った男女の二人組は、驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑った。
ツォンやらレノやらも集まってきて状況を聞いた後、急に無理をするなと言われて再び横になったところまでは覚えていた。
気付けば眠っていたらしい。明かりの具合からすでに夕方らしいとわかる。
西日の差し込む部屋は窓側に居る赤をさらに際立たせていた。レノの手が、青年が起きている事を確認するように瞼に触れ、頬に触れ、首筋に触れる。
押さえられて道を狭められた血管が、邪魔だと文句をいうように音を増した気がした。
自然に降りた唇が軽く降りて、久しく触れていなかった煙草の味を落とす。一瞬だけ抵抗をみせた青年も、深くならずに離れていくのに安堵して、息を零した。
「久しぶりの煙草の味はどうだ?」
「……ここで吸わせてくれるわけでもないならむしろ逆効果だな」
「だったらさっさと退院しろよ、病み上がり」
楽しそうに笑ってレノはもう一度軽く唇を落とした。同時に背から流れた髪が頬の傍らで遊ぶ。
おもいついて、青年はその尻尾のように結わえられた髪に触れた。
「髪、伸びたんだな」
「そりゃー伸びますとも。ちゃんと毎日オマエがおきますように、ってオイノリしてましたよ?」
おどけた調子でレノは笑うが、青年はそれに合わせて笑えず、ただ瞳を伏せた。手の中でさらさらした髪の感触だけが気にしなくていいのだと囁いているように思える。
「すまない」
「別に謝る必要はないけどな、と」
髪に神経が通っているわけでもないだろうに、レノはくすぐったそうに笑って身を放した。青年の手からも感触が消える。そして再び降りてくる唇。合わせられるだけのそれも受け入れて、青年は瞳を閉じた。